30話 対決
「お前達、一体ここで何を……」
あまりの衝撃に頭が白くなりかけた時、小鳥遊先輩が仕掛けた。まずは『鵺』を両断しようと迫る。
しかしそれは突如隆起した巨大土塊に阻まれた。いくら何でも切り裂く神魔刀であっても、斬れるのは刀の範囲である1m未満のみ。3mほどもある土塊を一息で切り裂くには足りなかったのだ。
「くっ、怪しげな術を……シュウジ君、アレをやりますよ!」
「アレですね、合点承知!!」
頭が混乱より戻る前に、体が先に動く。さんざん訓練したのだ。小鳥遊先輩に『アレ』と言われて反射的に『遠当て』の構えを取る。
これから行うのは、俺と小鳥遊先輩の遠当て二連撃だ。
先ず俺が十歩神拳を放って視界を遮っていた土塊を砕き――その数瞬後に小鳥遊先輩が真空波を放った。
このお互いの最大出力による連携技は、予備動作が大きく、また、隙も大きいために実戦では中々使いどころが難しい技である。しかし、巨大土塊で視界を隠された今が連携技を行う絶好のタイミングだった。
はたして土くれなき所を、刀の真空波が通過し、『鵺』を切り刻もうとしたところで、これまた突然現れた水塊に邪魔をされた。
アレは――俺の全身を骨折させた巨大水塊だ。その威力は身に染みて分かっている。小鳥遊先輩の真空波で切り裂けはするものの、その先にある鵺には届かないだろう。
それよりもだ。
次の一撃、巨大な炎の塊が俺達に迫る。
ウルズ達は三人いるのだ、三連撃もあり得るだろうと用意していた甲斐があった。俺は『左』の遠当てを繰り出し、巨大な炎の塊を打ち砕いた。
そして、ウルズ達がそれに驚いている隙に、残り火が漂う空間を小鳥遊先輩が突破。
『鵺』を一刀両断にせしめた。
「このっ、小癪な真似を!」
そう言ってスクルドが不可視の力(風か?)を用い、小鳥遊先輩を吹き飛ばす。しかし、そこは流石の小鳥遊先輩である。空中で見事に態勢を整え、無事に地面に着地した。
さて――
俺達はこの魔獣の森を支配する『鵺』を倒すと言う目的を遂げた。もうすぐ、この魔獣の森は枯れ果てるだろう。そうなったら、外に待機していた味方が来る。こいつらを捕縛するにはそれを待つのが賢明か。しかし、お互いにほぼ無傷。力を出せないまでに弱らせるのが――
そんな思考が頭をよぎったその隙にだった。
ウルズとベルザンディを名乗る女が鵺から両断された魔獣核を抉り出し……喰ったのだ。
「な、に?」
「馬鹿なっ、貴女たちは一体何を!?」
目を剥く俺達がよほどおかしかったのだろう。スクルドを名乗る女が哄笑う。
「なんだ、我らがこの場に来た目的を知らなかったのか? 全てはこの『森のヌシ』の魔獣核を喰らうためよ。お主らがこ奴を倒してくれたおかげで魔獣核を取り出すのが容易になった。礼を言わせてもらうぞ」
「魔獣核を喰う、それが目的?」
「それで力が増すとでも言うつもりか!?」
「フフ、小僧は察しがよいな。我々は――魔獣核を喰らう事に適応出来た稀有な例よ。我らを見出すために、あの研究所で犠牲となった被験者の数は千を超えるだろうさ。しかし――フム、今回も問題なく適用できたようだな。少々要らぬものが生えてしまったが」
見れば魔獣核を喰った二人の頭には、角のような短い突起が生えていた。
魔獣核を喰らう事で魔獣に近づいたとでもいうのだろうか? 確かにウルズからは、あのスーパーで出会った時とは比べ物にならない位の威圧感を感じる。
「シュウジ君、臆さないで! 私達なら、やれます」
「は、はいっ!」
「愚かな……新たな力を得た我らの力――思い知るがいい」
改めて突撃しようとした俺達であったが、空中に浮かんだ超巨大な火球を見て踏鞴を踏んだ。
先ほどの火球に倍する直径、そこに込められた熱量も半端ではない。単に立っているだけでちりちりと産毛が焼けてしまうような状況なのだ。
こんな自らも焼いてしまいそうな熱量。自身は平気なのかと見遣れば、アイツらは水の膜で自身を覆っていた。
「シュウジ君、もう一度アレをやりますよ。私達が生き延びるにはそれしかありません」
「承知しました。まずは俺の遠当て四連撃で威力を減衰させますから、小鳥遊先輩は最後の一撃でアレを切り裂いてください!」
「いつの間にそんな事が出来るように……いえ、こちらも承知しましたわ!」
迫る豪火球に俺は、右手、左手、そして右足、左足からチャクラのエネルギーを放出。遠当ての四連撃を敢行した。
それで威力はかなり減衰し、最初の火球程度の大きさになったが、まだエネルギー自体は大きなモノを秘めていた。しかしもう、俺は全ての力を出しきっていて、後は小鳥遊先輩の一撃に掛けるしかなかった。
「せぇえええい!!」
裂帛の気合と共に放たれた一刀は確かに火球を切り裂いた。しかし、その余波が俺達を襲う。
俺は、咄嗟に小鳥遊先輩に抱き着いて背を向け、チャクラを全開に回した。せめてこのヒトだけは娑婆に返してやらねば。
背中に熱いものを感じながら俺は気を失った。




