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3話 治安部寮


 スマートフォンのアラームで目が覚めた。


 時刻は6時を表示している。一人暮らしの身としては色々な身支度があるのでコレぐらいに起きるのがちょうどよい。


 ああ、勘違いしないで欲しい。親兄弟は健在で、人類の盾として覚醒した時点で何が起こるか分からないので――例えば、寝ぼけて超常的な力で害をなしてしまうような事がないよう、寮で一人暮らしを行っているのだ。


 因みに今日のミッションはと……『腕立て、腹筋、スクワットを千回ずつ実施せよ』だな。


 結構なトレーニング量ではあるが、昨日のような魔獣を倒せみたいなミッションに比べれば簡単な部類に入る。自己完結型のミッションであれば自分のペースでこなせるから。


 ともあれ、俺は冷蔵庫から支給品の食材を幾つか取り出すと、ベーコンエッグ、サラダ、みそ汁を作り、そして炊飯保温ジャーからご飯を盛り付けると朝食を摂った。


 能力に覚醒してからいくら食べて腹が減る状況が続いており、この調子だと食材支給の量を増やして貰わないと追いつかないかもしれない。


 支給品の申請先はあまり融通が利かない東堂教官なワケで、気が重くなるが背に腹は代えられない。下手な遠慮は身を滅ぼすことを俺はこの3か月余りの生活を通じて分からされている。


 そんな事を考えながら食事を終えて食器を洗い、干していた洗濯物を取り込んで、教材を鞄に放り込むなどして学園へ行く準備をしていると時間は7時に迫っていた。


 俺が住んでいるこの寮は7時に巡検があり、その時までに制服を着て扉の前に立っていないと、東堂教官に非殺傷性のゴム弾でケツを撃たれる。よって、1秒たりとも遅刻するわけにはいかないのである。


 そんなワケで学生服を着こんで部屋を出ると、いつもの事だが俺一人がぽつんと扉の前で立つ。


 寂しい風景ではあるが、何せこの階の寮生は俺だけなので当たり前ではある。


 学園治安部のこの寮は、学年ごとに階層分けされており、1年生は1階、2年生は2階、3年生は3階と生活圏が交わる事はあまりない。(1年の大島アユミ後輩、そして3年の小鳥遊キョウコ先輩が女性なので、変な誤解や間違いが起こりにくいのに一役買っている)


 ラウンジもあったりするが、何せ人が少なすぎる上に皆が個人主義なので利用するのは稀である。


 さて、ただ立っているだけだと眠ってしまうので、眠気覚ましにそんな事を考えていたら下の階から凄い悲鳴が聞こえた。そして数秒経ってから足音と共に東堂教官が現れる。



「お早うございます」

「おう、お早う。結構結構、今日も遅刻せずに立っていたな。これで3か月連続の皆勤賞だ。褒めてやる」

「……ありがとうございます」

「一階の大島なんぞ、今日で10回目の遅刻だ。コイツでケツを撃ってやったら猫のようにはしゃぎよってからに、クク、貴様にも見せてやりたかったぞ」

「は、はは……」



 可哀そうに。しかしそうか、待っている間に聞こえて来た悲鳴は大島のものか。


 アイツ、低血圧気味だから寝起きが悪いんだよな。10回もケツにアレを喰らわされているなんて同情するぜ。


 そんな思いが顔に出てしまったのか、東堂教官は怪訝そうな表情で俺に忠告する。



「ぅん、非道だと思うか? しかし、貴様ら治安部は人類の盾として、何時いかなる時としても気を抜くことは許されんのだ。貴様らの肩には幾多の人命が載せられていることを自覚して貰わんとな。この巡検はその一環だと思え」

「はい、それは承知しております。何時いかなる時も人類の盾であることを自覚して研鑽を積んでいるつもりです!」

「ならばよし。あの馬鹿はまだその自覚が足りん。今日も何の用意も出来ておらん様だ。行って飯でも食わせてやってくれ」

「え……いや、あの、女性の部屋に入ると言うのは、問題になりませんか?」

「ほぅ。そんな度胸が貴様にあったとは驚きだ。この私がいる場所で狼藉が働けるとでも?」

「そんな事は絶対にしません! ……男に見られたら不味い物とか、大島のプライベートを考慮してやる必要があると思いまして」

「治安部に入った時点でプライベートなんぞ存在せんよ。さて、話が長くなってしまった。三階の小鳥遊をこれ以上待たせるわけにはいかんからな。とっとと一階に向かえ」



 そう言って東堂教官は尻を掻きながら三階へ上がって行った。


 アレでいつも野戦服を着ているんじゃく、おっさんみたいな性格じゃなければ、さぞかしモテただろうにと余計な事を考えつつ、俺は一階にいるだろう大島の救援に向かった。




---




「あの暴力教官、酷すぎませんか? 女の子のお尻にゴム弾ですよ、ゴム弾! 生理不順になったらどう責任を取るつもりなんですかね!?」

「……そういう生々しい話は勘弁してくれ。それよりも俺は朝食を作るから、お前はその、乱れた服装や髪を何とかしろ。正直、直視に耐えん」

「えーと……ああ、なるほど。小鳥遊先輩に比べたら貧相ですけど、コレで中々捨てたものではないと思うんですが」

「いいからしたぎをちゃんとつけてまえをとじろこのばかちんがっ、こんな汚部屋でそんな気になれるか馬鹿!」

「…………馬鹿って二回も言った、酷いですよ先輩」

「そいつは悪かったな! ……からかうときは時と場合を考えてくれ、お前も魅力的な女の子に違いないんだから、っと、ゴホンッ。早くシャワーでも浴びて来い。その間に飯は作っておくから」

「はーい……センパイは紳士すぎますよぅ」



 散らかった部屋は敢えて掃除はしない。


 下手に掃除してしまうとアレが無い、コレが無い、何処へやったと騒ぎ立てられるのが目に見えている。妹を持つ身として、俺はその辺は詳しいのだ。


 んで、手早く朝食を作って配膳した後は、フライパンなどを洗って早々に部屋から退散した。


 でないと、あのアホは裸でシャワー室から出て来かねない。俺をからかうためだけに自分の裸を惜しみなく晒す、そんな破滅願望的なところがあるのを俺は知っている。青少年を何だと思っているのか。


 とにかくそんな事をやっている内に時刻は8時近くになろうとしていた。


 今日は日直だから早めに投稿しないといけないのに微妙な時間帯になってしまった。同じく日直の新田さんにどう謝るべきかと頭を悩ませながら、俺は学園への道を急いだ。


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