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25話 対話


 正直、彼女に聞きたいことは山ほどある。


 ただ、聞いたことを素直に話してくれるとは限らないし、嘘を吐かれるかもしれない。であればどうするのが正解なのか? 捕まえて尋問するのが正解なんだと思えるが、それが出来る実力があるかと言うとわからないし、こんな市街地でドンパチを始めたら、どれほどの被害が生じるか分かったモノではない。


 正直、こういう時、自分の頭の悪さには辟易する。


 小鳥遊先輩や大島、東堂教官ならこういう時にどうするかの最適な答えを導けるような気がするが、此処には俺しかいない。


 大体、なんなんだこの状況。


 目下最大の敵と思っていた女の一人とスーパーで出会うとか……いや、彼女らも人間?なのだから、食料を摂らないと生きて行けないのは当然なのだろうが、それにしたってスーパーは無い気がする。それも学区内のスーパーで出会うなんて何らかの意図を感じずにはいられない。もしや、俺達を監視していた? いや、それなら大島が気づかないって事はないだろうし……。


 くそ、本当に何が何だか全く分からないぞ。


 そうやって混乱している間に件の公園に到着したようだ。ウルズと名乗る女性が振り返る。



「さて、なにから話をしたモノかしらねぇ」

「俺としては、このまま警察か自衛隊に投降して貰いたいところなんだけどな……そうはいかないんだろう?」

「当たり前じゃない。全力で抵抗させてもらうわよ」

「ウルズ、アンタに聞きたいことは山ほどあるが、それを真実と判定できる手段が俺にはない。だからこの場は見逃す代わりに、一つだけ真実を語ってもらう……というのはどうだろうか?」

「へぇ、面白い交渉をするのね。貴方の事は単なる学生だと考えていたけれど、それくらいの頭を持っているのなら、妾達の組織へ誘う事もやぶさかじゃないわね。どう、今からでも妾達の組織に鞍替えしないかしら?」

「……それを判断するには判断材料が乏しすぎる。それに、俺は現状に満足していてな。アンタ達と共に行く未来が今のところ見えないんだ。大体、アンタ達、単なる被験者じゃないのか? 組織って何なんだよ。俺がどうしても聞きたい質問は一つだ。アンタ達の組織の目的、それは何なんだ? この世に混乱をもたらすと言っていたが具体的に何をするつもりだ?」



 一応、彼女の言葉尻から組織らしきものに属している事は分かった。


 であれば、何を企んでいるかを確認しなければなるまい。それが無害なモノであれば俺達がどうこうするべきものではないが、彼女らは治験を行っていた研究所を壊滅せしめ、その行きがけの駄賃として俺や治安部の皆を襲ってきた。


 何か良からぬことを企んでいると考えるのが普通だろう。そして、それはかなり不味いものではないかと思える。なぜなら――彼女たちはかなり暴力的だからだ。



「私たちの組織が一体何を企んでいるか、ねぇ? 世界征服と言ったら信じるかしら?」

「それならそれでいいぞ。遠慮なく……叩き潰せるからな!」

「おお怖い。安心しなさいな、そんな安っぽい野望なんて抱いていないから。ただそうね……妾達は今の社会概念が壊れる事を望んでいるわ。何もかもが、しがらみと利権に雁字搦めに拘束されたこの世を、もう一度あるべき姿に変えたい。そう、人間はもっと原始的で生命力に満ち溢れた生活を送るべきなのよ、妾達はその手助けがしたい。それだけよ」

「…………わりぃが、俺は頭が悪くてね。アンタの言っている事が半分も理解出来やしない。しかし、アンタ達がどうしようもなく悪いやつだって事は分かったぜ。とどのつまり、今の平和な世の中をぶっ壊したいって言っているんだろう? 社会を壊し、ヒトを動物に近づける……具体的には、魔獣核、それを使ってあの時俺にけしかけた『アインヘリヤル』とやらを量産するなんて事を企んでいるんだろ!」



 俺がそう言って人差し指を突き付けると、ウルズと名乗る女性は心底驚いたような呆然とした表情を見せた。そしておかしくて堪らないという表情に変わり、本当に本気で笑い出した。



「凄いわ貴方! 頭が悪いなんてとんでもない、私たちの企みを寸分たがわず言い当てるなんてね! やはり惜しいわ、妾達と一緒に来なさいな。今の貴方は旧人類にいいように使われるだけの哀れな人形に過ぎない。だけど妾達と一緒に来れば――」

「断る! 言った筈だぜ、俺は今の境遇が気に入っているって。こっちには俺の好きな女も居れば、守らなければならない人たちもいる。お前たちの野望は俺が止めてやるよ」

「へぇ……やっぱり面白いわね、アナタ。物事の本質を見定める目を持っている。本当に惜しいけれど、妾達は相容れない存在だという事が分かったわ。今度戦場で出会ったら――遠慮なく叩き潰してあげるわ」

「それは此方のセリフだぜ」



 それだけ言うと、俺達はお互いに踵を返した。


 本当なら、ここでやりあって戦力を削るのもアリかもしれない。しかし、それを成すまでにどれだけの民間人が犠牲になるか……市街地で戦うという事はそう言う事であり、圧倒的に此方が不利なのだ。俺の質問に答えてくれただけでも有難いと思うべきだろう。



「じゃあな」

「ええ、次は戦場で」



 そう言って俺達はその場を後にした。



---



 俺はその足で東堂教官の下へ走った。


 彼女らの目的はともかく、その具体的な手段――魔獣核の人間への移植は確実に不味い。


 多くの死者を出した上、適合したとしても出来上がるのは理性の無い暴力の輩だ。何としても止めなければ、確実にこの国は、いや世界は混乱に包まれるだろう。


 そんなワケで俺は治安部寮に辿り着くと、その一室である教官室のドアを叩いた。



「東堂教官、いらっしゃいますか!? あの3人の敵の一人であるウルズと出会いましたっ、ヤツラかなり不味いことを企んでいるようです!」

「なにっ、ちょっとまて、今すぐドアを開ける。お前はそこで、いや、館内放送で皆を呼び出せ。ラウンジで皆で話を聞こう」

「そ、そうですね、分かりました」



 俺はラウンジにある放送設備をONにすると、小鳥遊先輩や大島に向けて緊急事態が発生してラウンジに来るように伝えた。そして、彼女らが此処へ来るまでの間に、何があって何を伝えるべきかを整理整頓する。



「何があったのですかシュウジ君!」

「緊急事態とは、穏やかじゃないですねぇ」

「さあ話してくれ、ウルズと名乗る女が何を企んでいるかを」

『!!』



 俺は揃った皆に話した。


 ウルズと名乗る女に出会ったことを。市街地故に取り押さえられなかったが、その目的の一端と、具体的に何をしようかとしているのかを。



「…………馬鹿げていますね」

「まさか、近くのスーパーで出会ったとか……ボクには全く感知が出来ませんでした」

「それにしても、なんとまぁ大層な事を考えるものだな。しかし彼女らは3人、実行に移すには……いや、バックに何らかの組織が付いていると考えるべきか?」



 俺のもたらした情報に、3人が三様の反応をする。しかし、いずれにしても、事の深刻さは理解頂けたようでメッセンジャーとしての役割は果たせ、ホッとした。



「しかし、情報を得たとはいえ、それをどう防ぐのかは悩ましいものだな。『上』には報告するが、まともな解決策が返って来るとは思わない方がいい」

「それは! ……そうですね。ヤツラの居場所、それに所属する組織、何もかもが謎で、全てが対処療法になるしかないでしょう。今のところは」

「普通の魔獣や、魔獣核に寄生された被験者――アインヘリヤルでしたっけ? そいつらの居場所なら直径5kmの範囲に入ったら検知できるんですけど……この前もそうでしたが、彼女たち3人は検知できず……役立たずでゴメンなさい」

「なーに言ってんだ。お前は普段の魔獣探索で役に立ちまくっているじゃないか。アイツらが一枚上手と考えるべきだろうさ……とうか、彼女らが魔獣核に寄生されているかどうかも分かっちゃいないんだ。アイツらに惑わされるなよ」

「なるほど……そうすると、一度、状況の整理をした方がいいかもしれません。彼女らに振り回されている現状は決して健全とは言えませんから」



 とは言ってもだ……持ち得る情報が少なすぎて、情報の整理をするにもすぐに行き詰ってしまう。こんななら無理をしてでもウルズをふん捕まえれば良かったかもと思うが、後の祭り。それにあの時の判断が間違っていたとも思えない。



「……駄目だな、疲れた頭で何を考えても無駄だ。今日の所はコレで解散とする。進堂、お前は報告書を書くために私に付き合え。小鳥遊と大島はもう明日に備えて休め。今日は色々とイベントが盛りだくさんで疲れているだろ。さっさと寝ちまうんだな」


 たしかに、もう時間帯的にも21時を回っており、いい時間だった。


 魔獣の森での戦闘に始まり、遠当て技の披露、ウルズとの邂逅と……確かに今日は濃すぎる一日だった。


 正直なところ俺も休みたいが、報告が遅れれば遅れるほど犠牲者の数が増えると言う今の状況では仕方がない。もうひと踏ん張りしようじゃないか。



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