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19話 告解


「申し訳ないが聞いて欲しい。俺は自分の能力について隠し事をしていた。それによって軽蔑されるのは仕方ないことだと思う。だけど、命を預ける仲間には話しておかなければ不誠実だと俺は思った。だから、この話を聞いた後、存分に俺を詰ってくれていい」

「おい進堂、それは……まぁ、お前がいいならいいが……」



 深刻な表情で語る俺に対し、二人も録画画像を止めて俺の方を向いてくれた。その顔が失望に変わるかもと思うと凄く心臓にきついが、今までだましていたのは事実。甘んじて受け入れなければならないだろう。



「まず、チャクラについては先に話している通りの能力で違いない。体の中に7つあって、それが開く毎に身体能力が上がったり、漫画でよくあるプラーナに似た力が使えるようになったり、治癒能力が上昇したりする」

「それは、わたくし達も良く知っている力ですね」

「問題はそれに付随する能力なんだ」



 俺は一旦、唾を飲み込んで話を続ける。



「このチャクラ能力、七つ開けるには途方もない修練が必要で、通常であれば修行している間に寿命を迎えるってトンデモでもなく時間のかかるものなんだ。マニプラ(鳩尾)を開く為に必要な修練の数を見た時は目を剥いたよ、1,000,000日もの修業が必要ってミッションカウンターに表示されてさ、それはまともな手段じゃ辿り着けない領域だ。もし転生出来たとしても何十回もの転生が必要で途方もない回数だ」

「それは……ですけど、いま、シュウジセンパイはその鳩尾のチャクラを開いているんですよね? どうなっているんですか?」

「それが俺のミッションカウンターに付随する、G機能のおかげなんだ」

「G機能?」



 初めて聞いた二人が首を傾げ、既に機能を聞いていた東堂教官が溜息を漏らす。



「言ってみれば、仲間と認められた人達に、認められる、結束が高まる、という事があればその修行日数を大幅に減らすことが出来ると言う機能が付いていたんだよ。俺も最近知ったんだが」

「それはしかし、以前に東堂教官からも話を聞いていた事ではありませんか? 仲間との結束が高まればミッションカウンターの分母が小さくなると」

「はい、料理大会の後に聞いた気がします」



 確かに以前、その辺をぼかして東堂教官からは言ってもらった。しかし、この機能の一番厄介な部分を今日ここで話さなければならない。そうでなければいつまでも俺は不誠実なヤツになってしまう。



「アレには少し嘘があった。そのG機能の一番の問題はだ。仲間の女子の「好感度」を上げた時のみ、そのミッションカウンターの数が減るんだ」

「? ……なんかそれってギャルゲーみたいですね。えっともしかしてG機能と『G』って、ギャルゲーのGですか!?」

「その通りだ! すまないっ、俺は貴女達の好意を利用してチャクラの開発をしていた事になる。丹田のチャクラも、鳩尾のチャクラを開けたのも、全てこのG機能の助けがあってのことだ。軽蔑してくれていい!」



 俺は立っていられなくなり、その場に土下座した。これくらいしか俺には誠意を示すことができない。例え鞭で打たれようと、靴で頭を踏んずけられようとも、甘んじて受けるしかないと思った。


 だってそうだろう? 現実の女の子を、ゲームの駒に見立てて利用したのだ。決して許される事ではない。


 例えば俺が逆の立場になって、男心を弄ばれたとしたら激しく傷つく。今まで優しくしてくれたのは、別の目的の為だったのかと……例えば、俺はアッシー君でしかなかったのかとか、財布でしかなかったのかとか、それ系の悲しみだ。


 改めてそれを想うと冷や汗が止まらない。


 しばし治安部部室の中には沈黙が立ち込めた。しかし、誰かが意を決したように俺に近づいて来る。俺の心拍数は最高潮に跳ね上がる。踏みつけられるのだろうか、それとも、引き起こされてビンタされるのだろうか……。


 そんな想いで戦々恐々としていたら、引き起こされてぱっぱと服に付いた汚れを叩き落とされた。そしてそれを成したのは……小鳥遊先輩だった。



「一つ教えてくださいな。今まで、いえ、あの三人と対峙した時に命がけでわたくしたちを守ったのは演技だったのですか? それともチャクラを開くと言う打算あっての事だったのでしょうか?」

「それは違います! 貴女方が大切な仲間だからこそ俺は命を懸けた。そんな場面で打算的な行動に出られるほど俺は達観した人生を送っちゃいません。少なくともあの時は咄嗟に身体が動いた。そしてそれは、今までの戦いでもそうです。少なくとも俺の力は誰かを守るためにある。チャクラを開くために誰かを守るなんて、目的と手段が逆転するような事はしたことがないと断言します!」



 前にも述べたが、手段と目的が入れ替わった時、大抵の事は碌な事に成らないか、破綻することを俺は知っており、きつく戒めているのだ。



「フフ、ならばなんの問題があると言うのですか? ねぇ、アユミちゃん」

「そうですね。シュウジセンパイがヒトを助ける目的で行動して、結果としてボク達の好感度?が上がるのは勝手な事です。そこにシュウジセンパイの計算が無いのなら、ボクとしては何ら問題を感じません」

「いや、しかし、俺の能力は勝手気に貴女達をゲームの駒のような扱いを、」

「それはもう、そういう能力だと思うしかないんじゃないか? 私も最初に相談を受けた時、お前が力を求める為にその機能を使うんであれば矯正していただろう。しかし、お前はちゃんと目的と手段を違える事が無いヤツだと分かっていたから、放置した。そしてそれは正しかったようだ」



 なんとうか、思っても居なかった展開だ。下手をすれば治安部からの追放を言い渡されてもおかしくないと思っていたのに。



「見縊って貰っては困りますよ、わたくしたちはそこまで経験が少ない子供ではありません」

「シュウジセンパイが誠実なヒトであることは、今回の件だけでなくとも知っていますから……ですが隠し事はもう無しにしてくださいね。こんな事を繰り返すのは時間の無駄ですから」

「…………あ、ありがとう。そして、ゴメンなさい」



 な、なんとかなって本当に良かった。


 思った以上に寛容で大人だった女子の皆様に、俺は本気の安堵の溜息を吐いたのだった。


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