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16話 闘争


 人気がなくなった中庭のベンチに座り、俺は大量の食事を摂っていた。


 丹田のチャクラを開いてからこの方、腹が減ってしようがない状態が続いている。恐らくは戦闘時に使用するエネルギーが桁違いに増えたためだと俺は理解している。


 東堂教官にはもう少し抑えられないかと苦言を呈されたが、喰わないと体が細って行って最終的には戦闘に耐えられなくなってしまう。


 これがサハスラーラ(頭頂部のチャクラ)を開いていれば宇宙エネルギー?を取り込めて腹が減らない体質になるらしいのだが、それは最終解脱クラダルマの領域で、俺が生きている間に到達できるか分からない領域だ。凡人の俺としては食事でエネルギー補給するしかない。


 さて、件の13人はいつ襲ってくるのやら……。


 東堂教官からあの話を聞かされてから数時間が経過しており……今は最も視界が悪い黄昏時である。既に地域の自警団の方など配置についており、魔獣核に浸食されたヒト達が現れたらいつでもブレードネットを射出できる状態にある。


 問題はそれが本当に通じるかという所なのだが……相手の能力が分からないのであれば、こちらの最大の装備で以って事に当たるしかない。


 はたして――彼らと彼女らは現れた。


 遠目で見るに人数は10人で……参加していないヤツラも居るって事だろうか?


 そう思っていると傍らに置いたスマートフォンが振動して、俺はスピーカーモードで着信した。



『シュウジセンパイ、見えていますか? 例の魔獣核に侵された人たちが現れましたよ。いずれも凄い敵意です。気を付けてください』

「ありがとう、大島。しかし、ここから見える人数としては10人で3人足りないようだが……近くに反応はないか?」

『はい、こちらで検知できるのも10人です。他の3人はどこかで様子見している可能性が大ですね』

「魔獣核に侵されながらも理性があるって事なのか? ……よく分からんが、今はアイツらに集中した方がよさそうだ。お前が狙われている可能性も十分にあるからな、小鳥遊先輩にちゃんと守ってもらうんだぞ」

『了解です。センパイ、本当に気をつけて』



 そこで通話は切れた。


 もう十分に視認できる距離まで件の10人が近づいて来ている。いずれも酷い恰好をしていた。


 着ている服はいずれも拘束服を破いたもので、素肌が覗いている者もいるが……魔獣核に浸食されて、そこから赤太い脈打つ血管のようなモノが見て取れる。そして顔色は青白く……ゾンビ映画に出てきそうな気色悪い表情をしており、敵意の凄まじさは魔獣と変わらない。今にも襲ってきそうだった。


 そして俺とヤツラとの距離が15mほどまで近づいたとき――



「今だっ、撃て!」



 そんな東堂教官の合図と共に上下左右からネットランチャーでブレードネットが射出された。その数は20を超える。


 『ブレードネット』はチタン合金製の0.5mmほどの細いワイヤ―を網状に編んだもので、それに絡まれたら自分の藻掻く動きで傷を負うという、かなり凶悪な捕獲網である。


 普通の野生動物であれば、バラバラに四肢を引きちぎられるため、捕獲用と言うよりは殺傷用の網であるが、魔獣が相手の場合はそのド太い剛毛と、分厚い皮膚から、動きを留めるにしか使えない。


 果たして、魔獣核に浸食されたヒトはどうか? 絡みついたブレードネットを破ろうと藻掻くが、そのチタン合金製ワイヤーの強度と鋭さに血だらけになっていく。


 どうやら知性も魔獣並みに落ちているらしい。下手をすれば出血多量で死に至るだろう。その前に魔獣核をぶっこ抜いてしまわなければ。


 俺は網に絡まって藻掻いている一人に近づくと、瘤のように盛り上がった場所に五本抜き手を繰り出した。


 既に丹田のチャクラまでの力を得ていた抜き手は、プリンにスプーンを差し込むような手ごたえで突き進み、確かな感触を持って魔獣核を引き抜いた。そして、引き抜いた魔獣核は二度と人に寄生が出来ないように握りつぶす。


 そんな乱暴な手術オペに、周りの自警団員は呻き声を上げたが知ったこっちゃない。両手を使って藻掻いている連中の魔獣核を次々に取り出し、握りつぶしていく。


 そうやって半分ほど魔獣核を取り出した時だった、バレーボール大の火の玉が迫っていることに気付いた。反射的に俺は右足でそれを蹴とばしたが、それはその先にあった校舎にぶつかると、大きな音を立てて爆発、炎上した。


 これは……発火現象パイロキネシスか!? 


 見れば、ひとりだけブレードネットから自由になった女の人が、同じような大きさの火の球を周囲に三つほど浮かべている。



「全員、退避してください! アレに当たったら死にますっ」



 そんな俺の声に反応して、周りに居た自警団員のヒト、そして、東堂教官が俺を一瞥して退避していく。


 そう心配そうな顔をしなさるな。此処からが俺の本領を発揮すべきところでしょう。しかしまいったなこりゃ、残った全員が発火現象パイロキネシス能力持ちか!?


 ブレードネットの奇襲から立ち直ったのか、残った4人がそれぞれ火の球を浮かべて立ち上がる。チタン合金はかなり耐熱性があるはずだがそれを焼き切るとなると、アレに込められた熱量は尋常ではない。


 現に、あの火球一つで校舎の鉄筋コンクリートはかなり抉られている。もし丹田のチャクラに目覚めていなければ、俺の右足は消し飛んでいたかもだ。


 そんな事を思って冷や汗を流す俺に自分たちの優位を感じたのか、四人の寄生者達は出していた火の球を結合させ、大きな火の球を形成した。その大きさは建物を倒壊させる円形ハンマーの大きさに近い。


 アレをまともに受けたら骨も残らないどころか、後ろの校舎まで吹き飛ぶだろう。だが、そんなこと、させるものかよ!



「舐めんじゃ、ねぇぇええ!!」



 俺は目の前の巨大な火の球に、チャクラを全開にした双掌打を叩き込んだ。



---



 ああ、なるほどな。俺は「そう」だったんだと、ここで初めて気づいた。


 だってそうだろう?


 生き残る事が保証されていない大火球と真正面から対峙しようとするなんて正気じゃない。


 いくら己の覚醒したチャクラに自信があったとしても、生き残る公算があったとしても、死ぬかもしれない事象に嬉々として向かって行くなんて「怪物」以外の何物でもない。


 俺は――そう、己が命を天秤にかけて楽しむ、愚かで救いようがないガキだったのだ。


 だからこそ――だからこそ、同じ「怪物」であるかもしれないあの女に惚れたのだ……。



---



 魔獣核に寄生された女達が作り出した大火球。それは俺の全力放出のチャクラと拮抗した。


 だがここに至ってようやく己の枷を解き放った俺の更なる全力によって拮抗は破れ、大火球は天へと昇って行き、花火となった。


 凄まじい轟音と光が溢れるなか、呆然としている女たちから魔獣核をもぎって回収し、握り砕く。先に手術オペした連中よりも大分肉を削ぐことになったが仕方あるまい?


 俺を殺そうとしたのだ。これくらい乱暴な施術になることは承知して貰わなければ。


 さて、最後の一人となり、その女はまた火球をぶつけようと周囲に浮かべたが、俺の飛び前蹴りを顔面に受けた事で気絶した。


 全く往生際の悪いことで。


 それによってくすぶってその場で爆発しようとした火球は、俺の廻し蹴りで空へと飛ばし、これまた花火となって爆発した。ははっ、た~まや~と叫びたい気分だぜ。


 そんなワケで最後に残った女からも魔獣核を摘出し、握り砕いたことでこの場における戦闘は終結した。

 

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