14話 兆し
その後、大島アユミも合流して各人が思い思いの時間を過ごす事になった(俺の日々のミッションは丹田のチャクラが開いたことでリセットされ、明日から再開となった事で久々のミッションなしの休みを堪能させてもらった)。
ちなにみ電子工学科の発表の場では大島の独壇場となったようで、『頑張ったんですよー、えらいですよねー、褒めてくださいよ~』と、半ば強制的に頭を撫でさせられた。
1年生だけという集まりの発表会であるが、その中で優秀な成績を収めたというのは普通に凄いことなので褒めるはことに躊躇いはない。俺の血生臭さが染みついた手で頭を撫でてよいものか迷ったが、大島が無理やり手を掴んで誘導してきたので、思う通りにさせた。
なお、小鳥遊先輩も珍しく笑顔で大島アユミを褒めたたえており、わー、きゃー、言いながら撫で合いっこをしていた。
うん、カワイイは正義である。
――そんなだから、出張から帰って来て、荒れている東堂教官のテンションには、咄嗟に付いていけなかった。
「クソっ、防衛する範囲を増やされたぞ! 本校以外にも周囲3kmをカバーしろとのお達しだ。これからは校内だけじゃなく地域の防衛も任される事になる。それと今は極秘だが非常に厄介な事が起きているらしい。不測の事態に備えて心構えだけはしておいてくれ」
つまり……殆ど小鳥遊先輩の言っていた通りになったわけだ。
これからは学生というよりも、地域の安全を守る『守人』としての役割を強く担う事になるだろう。そういった意味で、大島の電子工学科の発表はギリギリ間に合ったのだと言える。
そのことを全員が自覚したのか、お祝いの雰囲気ではなくなってしまった。
「それにしてもいきなりですね、学園長や他の教官には話は通っているので?」
「ほれ、これが命令書だ。これを持って説明はしてきたよ。教官全員が納得済みで、明日以降、お前らは学業よりも、守人としての役割を果たすことに集中してもらわなければならん」
見せられた一枚の紙を見ると、お偉いさんのハンコ付きで、先ほど東堂教官が仰ったことが書かれていた。どうやら本気で守人と言う役目に就かざるを得ないようだ。
そうなると、先ほど覚醒した『スワディシュタナ(丹田のチャクラ)』の使い方を早く習熟しておくべきだったかなと少し後悔の念が湧く。
大島のお祝いは別として、自身の武器は早めに習熟しておくに限る。そのいざという時が今起こらないという保証は何処にもないのだ。
しかし、そうだな……。
せめて次なる丹田のチャクラが覚醒した事だけは、この場で情報共有しておこう。
そんなわけで、神妙な顔をしている皆に向かい、ことさら明るく振る舞い、俺の戦力が強化されたことを述べた。
「それはそれは……おめでとうございます。しかしどうして急に? 覚醒までには30年以上の鍛錬が必要だったと聞いておりましたが」
「それはですね、えーと…………いうなれば愛の力……といったところでしょうか」
そんな俺の言葉を聞いて噴出した東堂教官を軽く睨む。
俺だってこんな誤魔化し方はしたくないが仕方ないじゃないか。G機能が小鳥遊先輩や大島にバレたら、下手をすると治安部が空中分解するかもしれないんだぞ。
俺が悲しい表情をしていると東堂教官は苦笑しながら弁解する。
「いや、悪い。確かに愛の力と言えばそうだな。お前たちに開示しているのとは別に、進堂からは治安部の結束が高まれば能力覚醒までのノルマが縮まるようだとの報告を受けていた。例えばこの前の料理大会で親交を深めた分、能力覚醒が早まったんだろうさ」
「はー、なるほど、アレにはそういう意味合いもあったんですね」
「それだったら教えてくれても良さそうなものですが」
「いやあ、俺自身もこんなに成果がすぐ出るものとは思っていなかったもので……すみません」
続く東堂教官のフォローに合わせ、俺も慌てて話を合わせた。こういうのを無茶ぶりというと思うんだが、それだけ信頼されているのだろうか?
再び軽く睨むと、東堂教官は軽く苦笑するだけだった。
「それで、丹田のチャクラが開けるようになって、何が出来るようになったんだ? 守護する範囲が広がった分、それに相当するような、戦力が向上したっていうんならありがたいんだが」
「それは……今日、覚醒したばかりなので検証は済んでいません。今日これからでも……」
「いや、もう18時を過ぎている。休む事も……いうならば体調管理も守人として必要な技能だと思え」
「それは……! いえ、了解しました」
『過ぎたるは及ばざるがごとし』、と言う言葉は俺の座右の銘である。これを俺は、何事も本質を見極めて機会を逃さず最適な行動をとる事が肝要……と捉えている。
頑張りすぎていざという時に本領を発揮できない……なんてことは避けるべきだ。
そんなワケで、その日は状況確認と、明日からの行動指針を決めるだけに留まり、解散と相成った。
明日からは更なる魔獣との闘いの日々が待っている事に、武者震いと共に思いを馳せながらその日はぐっすりと眠った。




