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12話 変化


「そういえば最近、シュウジセンパイ、少し変わりました?」

「変わったって言うと……どんなふうに変わったってんだ? 自覚はないんだけど」

「なんというか、とっつきやすくなったと言うか、話しやすくなったと言うか……そんな風な感じです」

「……とっつきやすくなった、か」


 それはたぶん、ミッションカウンターのG機能のおかげでは無かろうか? とうかそれ以外に思いつかない。

 

 現在、治安部に居るのは俺と大島アユミだけである。


 例によって東堂教官は教官室だし、珍しいことに小鳥遊先輩は実家に用事があって一時帰宅している。


 俺の日々のミッションは先ほど魔獣を一体屠った事でクリアしてしまって休憩タイム。大島は相変わらず何らかの電子モジュールを作り続けている。そんな中で話しかけられたのだった。



「例えばですね、一昨日の東堂教官の女子力の講義……いつもであれば真っ先に抜け出していたはずなのに、珍しく最期まで付き合ってくれていたじゃないですか」

「あれは……」



 まさしくG機能に引き留められた一件だな。


 しかしそれを正直に話す訳にはいかない。せっかく短縮されたミッションカウンターの分母が元に戻るならまだしも、変態ヤローとして嫌われ、永遠と蔑まれる未来が予見できるぞ。


 故に俺は適当な言葉で誤魔化すことにした。



「今どきは男もその、女子力?とやらを身につけておくべきだと思ってな。ほら、育休とか男も取るように推奨されている世の中だ。将来を見据えて育児や家事のことをちゃんと身につけなきゃと思ったワケだ。結局は何の役にも立たない話を延々と語られるだけで終わってしまったが」

「なるほどー……しかしアレですね。先輩もちゃんと結婚とか女の子に興味があったんですね」

「ぶっ……そ、それは流石に失礼じゃないか? 俺だって年頃の男子だ。女の子に興味もあれば、最終的にそうなる事を見込んで備えるということを考えもするさ」

「いやー、だってボクの先輩に対する第一印象って分かりますか? 魔獣絶対に殺すマンですよ。全身血塗れで魔獣の核を持つ先輩の姿を見て、それ以外に浮かぶと思います?」



 ……そういえば、コイツとの最初の出会いは魔獣を倒したその足で東堂教官に此処へ連れて来られたんだっけ。たしかに、それだけ最初のインパクトがきつけりゃ怖がりもするわな。魔獣絶対殺すマンと言われるのも言わずもながらといったところか。



「いえ、まあ、少し話せばちゃんとした普通の人であることはスグにわかりましたがね」

「確かに、最初の出会いが不味かったな……あの頃はまだ魔獣との戦闘に慣れてなくて殺気を抑える術も身に着けていなかったし。怖がらせてしまっていたのなら謝るよ、この通りだ」

「いえいえ、今更のことですし、今はセンパイを怖がる理由は全くありませんよ」

「……それならいいんだけどな……家族もお前くらい理解があってくれると助かるんだけど、ホントに」



 せめて怖がるのはやめて欲しいなぁと言うのが俺の願望だ。話を振った大島も、確かにそうですねと頷いている。



「それで、センパイ。シュウジセンパイには好きな女の子が居るんですか?」

「なんだ、藪から棒に。俺が少し変わったって話の続きか?」

「まあそうですよ、一昨日の話以外にも確実に変わったと断言できます。本当に話しやすくなりましたもん。これはもう誰かを好きになって、その予行演習をボクたちでやっているとしか思えません」

「いや、そんな失礼な事はやらねーよ!」

「じゃあ、いったいなんだっていうんです? もしかして新しい『能力』に覚醒してその所為だったりして……?」



 うぉっと、鋭いな。


 まさしくその通りなのだが、それを悟られるワケにはいかない。何とか誤魔化さないと。しかし、女子と話す事なんて母親か妹とくらいしか最近はない。小学生の時のあの遠慮のない会話は遠い昔の事で役に立たないし、どうしたものか……。


 俺が答えに詰まっていると、大島がワクワクと言った感じで瞳を輝かせている。こりゃあ真面目に答える必要はないな。硬軟織り交ぜて煙に巻いて進ぜよう。



「実を言うと好きな女の子はいる」

「ほう! 以外に素直な答えが返ってまいりましたよ!? ち、ちなみにそれが誰かを聞いても?」

「それは残念ながら秘密だ。ただ、治安部の誰かかどうかはお前の判断力に任せることにするよ」

「ええええぇええ、ってことは……ボクってこともあり得るんですか!?」

「さぁてなぁ……ただ、治安部は魅力的な女子が揃っている事を否定することはしないよ。それが好意につながるかどうかは別として、な」

「ふへぇ……センパイが、もしかしたら……」



 なんか大島のヤツ、顔が真っ赤になって頭から蒸気でも吹き出しそうになってしまったぞ……?


 別に大島の事を好きと言ったわけではないのに、この反応はなんだろうか。ちょっと揶揄い過ぎたかもしれないが、それを訂正する術を俺は知らない。



「センパイが……ボクの事を……」

「いや、ちゃんと話を聞いていたのか? おい……ありゃま、こりゃ、駄目だな」



 目の前で手を振ってもぼーっと虚空を見つめるだけで何も反応がない。頬を突いてみても「にへら」と表情を崩すだけで俺の存在を忘れてしまったかのようだ。


 時計を見るともう17時を半ば回っており、そろそろ片付けて帰る用意をしなければいけないのにどうしたものだろうかと悩んでいると、G機能のポップアップが目の前に表示された。



『大島アユミとウルトラグッドコミュニケーション!!「スワディシュタナ」覚醒までのミッション回数が3,000回減少しました。よっ、この女誑し!』



 誰が女誑しだこの野郎! と、俺は反射的にポップアップに向けて正拳突きを繰り出すのだった。


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