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11話 日常


 当然ではあるが、治安部にも休日は存在する。


 学園の校舎はいざという時の避難場所になる重要拠点であり、欠かす事のない建屋であるが、俺たち治安部の本分は学生であり、緊急時以外は学生として過ごすことが認められている。


 というか、休みの無い職業なんて、漁船などの連続操業を必要とする職場以外、今の時代のこの国ではそうそうあり得ないだろう。


 まあ、俺達が休みの日には、警備員さんが警邏して何かあったら連絡して来る仕組みになっており、完全な休みと言うのは中々に取れないのだが。


 しかし、休みの日が大きな自由時間であることに違いはない。


 治安部寮に残って鍛錬をするのもよし、街に出て憂さ晴らしをするのもよし、実家に帰って家族と過ごすのもよしと、学園から遠く離れる事さえなければ何をしていてもよい。


 家族は健在なので実家に帰っても良いのだが、能力に覚醒して以来、俺が居ると家族がぎくしゃくするような雰囲気となってしまい、それが嫌なのであまり帰れていない(そしてそれは小鳥遊先輩にしても、大島にしても同じようだ)。


 そうなると街に出て何かをするという選択肢を選びたくなるのだが……やはり能力のおかげで友達が少ない身としては、独りで過ごすという寂しいことになる。


 いや、ボッチで過ごすことを否定するつもりはないが、小遣いもない状況で街に繰り出しても虚しいだけなので……結局は治安部寮で過ごすことになってしまっている。(能力のおかげでバイトもできない)


 ただ、自由時間を鍛錬や勉強のみに費やすのは不毛だ。なので、治安部の皆が揃っているときは何らかの遊びを提案して過ごす場合がある。


 今回は東堂教官も含めて全員が治安部寮に居るという事なので、日々の自炊の成果を確かめようという料理の腕自慢大会をすることになった(珍しく東堂教官の提案だ)。


 んで――自炊と言っても、自分用に簡単な料理を作るだけの日々を過ごしている俺達が、人様の舌を唸らせるような料理を作れるわけもなく、そこそこのモノで、うん、まあ、こんなもんだよねと言う感想しか出ない有様と相成った。



「…………」

「いや、美味かったですよ、美味かったですが……まあ、うん……普通?」

「普通……でしたね。一応、和、洋、中で作ると言うお題を掲げて作ってはみましたが」

「結局のところ、定番に落ち着きますよねー……いえ、ド定番しかなかったと言うべきですが」



 作られたのは、肉じゃが、ハンバーグ、チャーハンの三品であって、まさに家庭料理の定番というモノだった。ちゃんと作れば不味くなる要素の無い品であって、皆が皆、日和った形である。


 しかも俺の作ったチャーハンなんて市販の素を使っているし、小鳥遊先輩のハンバーグなんてレトルトっぽい。ちゃんと作ったのは大島だけという体たらくだ。



「ま、まぁ、思い付きでやった分には悪くなかったと思いますよ? 交流を深めると言う目的は果たせたような気がしますし……以後、定期的にやるかというと微妙な気がしますが」

「一回の失敗で諦めんな! お前らもっと料理の勉強をしろ、こんなんじゃ、魔獣に打ち勝つ体力をつける事なんてできないぞ!」

「いえ、魔獣に関しては今のところ問題なく撃退しておりますが」

「ボクなんて、直接戦うわけじゃないですし」

「くそっ、うまく行けば食費を浮かせられると思ったんだが……」 



 ああ、それが本音か……けど、腹を満たすと言う目的は果たせたのだからいいんじゃないだろうか。定期的な開催と言うのは諦めて貰うしかないかもだが。


 すこぅーし軽蔑の目で俺達に見られた東堂教官であるが、何を思ったか、それを振り払うように大声を張り上げた。



「お前らには女子力が足りない! いいのか、お前らっ! 魔獣と戦って戦って、その果てに何も残らない未来しかなくても!? お前らはまだ若いから実感が湧かんかもしれんがな、私のように……戦い続けたおかげで少しの金はあるが、女子力が無い所為で男には見向きもされず、婚活パーティで惨めな思いをすることになるんだぞ!?」

「そ、それは……」

「本当の話なんですか! 東堂教官!?」



 ……なにやら雲行きが怪しくなってきたな。あと、俺だけは男なんだが。



「フフ、聞きたいか? 20代の前半を硝煙と血と泥にまみれた女の話を。どんな時でも教練の癖が出てしまう悲しき女自衛官のサガを!」

「もしかしたらわたくしも、そのような道を辿ると?」

「えーと、その、ボクも?」

「ふん、お前たちは10代半ばから戦いの場に身を置いているのだ。クク、私どころでは無いかもしれんぞ。それほどまでに女子力を身に着けるのは困難なのだ! よーく聞け、女子力を身に着けるにはだな……」



 なんか宗教じみた教習が始まってしまった。とりあえず俺には無関係なので退散してもイイかもだ。しかし、そんな俺を引き留めるようにいつものポップアップが現れる。


『東堂教官の女子力講義に参加しましょう。ハッキリ言って役には立ちませんが、ここで抜け出すとバッドコミュニケーションとなって次のチャクラ覚醒までの回数が増加します』


 おおぅ、なんてこったい。


 しかし、そりゃあそうか。グッドコミュニケーションもあれば、バッドコミュニケーションもあるわな。


 そういえば妹に聞いたことがあるな、女子は何よりも共感を大事にする生き物だと。ここで抜けてしまったらその共感とやらは得られず、ダメな男と判定されてしまうのだろう。


 それを教えてくれるとなると、地味ではあるがとても有難い機能だ。少なくとも治安部の結束を高めると言う意味ではこれ以上ない能力ではなかろうか。


 俺はこのポップアップ機能に、結構な上方修正を加えた上で、仏の境地となり、小鳥遊先輩や大島と共に東堂教官の女子力アップの講義を聞き続けることになった。


 貴重な休日は潰れてしまったが、それで治安部の結束が高まれば安いものである。聞き終わった後にはカウンターの分母が300も減ったし、結果オーライである。


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