10話 後始末
魔獣を倒した後の後片付け。それは専門の魔獣引き取り会社にお願いする事になる。
普通の野生動物と違って生命力の強い魔獣は途中で蘇生する可能性があり、軍隊に準ずる装備を持った会社が引き取りに来るのだ。その引き取りを連絡し、実際の受け渡しをするのは東堂教官の仕事であり、一応、受け渡すときは倒した俺達も立ち会う事になっている。
なぜかと言うと、魔獣に埋め込まれていた『核』。コイツを能力が無い一般人が触ると侵食しようとするのだ。小鳥遊先輩の場合は体ごと核を切り裂いて沈黙させてしまうのだが、俺の場合は素手で抉り取るということをするので、『活きている』状態で渡す事になる。(厳重な容器に放り込む)
そんな面倒な物なんて砕いてしまえばいいじゃないかと思うかもしれない。
しかし、この『活きた核』というのは中々に貴重で、あらゆる研究所が欲しがる物品となっており――ぶっちゃけ金になるのだ。
今回、抉り取った核は2つで、後は小鳥遊先輩がみじん切りにしてしまっている。よって俺が両手に核を持って東堂教官と引き取り業者を待つ事になり、小鳥遊先輩と大島は授業へ戻って行った。
引き取り会社を待っている間は暇なので、俺の次のチャクラ覚醒までのカウンターが随分と減った事を東堂教官へ相談することにした。
因みに今日の課題は『魔獣を1匹倒せ』なのでクリア済みである。
「なんとまぁ、何があったか知らんが6,600まで数を減らしたのか。昨日に話を聞いたときは9,700だったよな……お前って見かけによらず、女誑しだったんだな」
「人聞きの悪いことを言わんでください。俺としては普通に話していたつもりが、スーパーとか、ダブルスーパーとかパチスロみたいなフィーバー表示が出て、ガクンと減ったんですよ」
「なんで学生のお前がパチスロのそういう機能を知っているのかは問わんことにしてやるが……そういうことか。あれから私もギャルゲーの事を少し調べてみたが……アレだな、対象の女と良いコミュニケーションをとると好感度がその分上がると、そして、お前の場合は覚醒カウンターの分母がその分下がると、そういうことなんだろう。しかしお前の場合は対象を選ばずに良いコミュニケーションをとるとカウンターに影響がでるようだから『G機能』というよりは『H機能』といった方が正しいんじゃないか?」
「……勘弁してくださいよ」
実を言うとその名称が頭をよぎらなかったと言えば嘘になる。俺のチャクラ覚醒カウンターに影響を与えたのは3人で、いずれも治安部で関係のある女性である。これで男との会話も対象だったら『C機能』と名付けたところであるが、旧友の男子と話したところでカウンターが減る事はなかったし、カウンターが減るときに表示される「もっと女の子とコミュニケーションを取ろう」という表示を見ると、G機能、又はH機能と呼んだ方が適当な気がする。(いや、せめて俺はG機能と呼ぼう)
まあ、名称の事はもういいだろう、問題は今後、積極的に女の子と話すべきか、このまま自然に接するべきかだ。
「お前の性格からするに、答えは既に出ている気がするがな。言い難いことだがお前がクラスの皆に何と呼ばれているか知っているか? 『恋愛透明人間』だぞ。つまり、いてもいなくても……ああ、スマン、傷つけるつもりは無かったんだ」
親兄弟にその名で呼ばれることは仕方ないと思っていたが、級友達にもそう呼ばれていたのか! ぬうぅ、今年2番目くらいのショックだぜ……。
「まあ、無理はするなと言うのが私からのアドバイスだな。女はそういった機微に鋭いからな。不自然に好感度を上げようとすると、まず確実に離れて行ってしまう事になるだろう。今の状態でも問題なく魔獣を倒せるチカラがあるんだから、チャクラの覚醒はおいおい進めて行けばいい」
「……分かりました。しかし、最近、魔獣の出没する数が多くなっていませんか? 今日なんて6匹も魔獣が出ました。もしかしたら早急な戦力増強が必要になるかもしれません」
「確かにな……一週間後にこの界隈での魔獣対策会議があるから、今日の事も含めて色々と話をすることとしよう。戦力増強も視野に入れて、な」
そんな感じで魔獣引き取り会社が来るまで、東堂教官との時間は過ぎて行った。
なお、今回の会話で『カウンター』の分母が減る事はなかった。どうやら、普通の会話や仕事に関する会話ではカウンターの分母は減らないらしい。
東堂教官には焦らずともよいように言われたが……俺も年頃の男である。女の子と仲良くしたいと言う欲求は人並にあるし、男としてより強くなりたいと言う欲求もある。
自分で出来る範囲で何かをやってみようと決意するのであった。




