さようなら、そして
ミーシャの姿は壁際にあった。
あくまで警備に徹しているようで、立ったままこちらを見ている。
ガルフォードによれば、ミーシャの周囲にいる騎士は彼女を見張っているという。だから、もしおかしな動きがあれば取り押さえられる状況にあるようだった。
ならきっと大丈夫。
参列者の中にはお父様や大叔母様、バルザックの姿が。ライラもいた。
なんだかんだ時間が進み――誓いの言葉……そして結婚指輪をはめていく。
そんな中で“動き”があった。
『……!』
ミーシャが姿勢を低くしていた。あ、あれは……なにをする気なの? もしかして呪い……?
周囲の騎士は気づいていないのか動こうとしない。
どうして……!
彼女は結婚式をぶち壊すかもしれないのに!
「…………クリス、どうした?」
小さな声で語りかけてくるフェイルノート。
わたくしは、ミーシャのことを耳打ちした。
「彼女です。怪しい行動が見られました……なのに騎士たちが動かなくて」
「……いや、あれは動けないんだ」
「え」
「何者かが動きを止める魔法を使っているようだな。こんな大胆に魔法を行使するとは――む……」
突然、胸を押さえるフェイルノート。まさか……はじまったの?
ウソ、ウソでしょう……。
止められないの!
「フェイルノート様……!」
「…………っ。だ、だいじょうぶだ……」
「でも、苦しそうです」
結婚式は終わるかもしれないけれど……こうなったら、直接わたくしがミーシャに制裁を下すしか。
歩いて行こうとすると、フェイルノートが止めた。
「大丈夫だ」
「でも」
「動きを止める魔法を解除する。このフォスフォフィライトの効果なら可能だ」
そ、それって宝石店オープン当初に特化で提供していたもの。フェイルノートが持っていたんだ。
「その宝石に力があるのですね」
「ああ、これにはどんな魔法も打ち消す効果がある。これで俺の呪いも、そして……騎士たちの行動を止めている呪縛魔法も解く……!」
フォスフォフィライトを掲げると、それは緑色に光を放ち周囲を照らした。
参列者は「おぉ、なんというサプライズだ」と驚いていた。
そう思ってくれて好都合。
そんな中で新生ガウェイン騎士団の騎士たちが動き出し、ミーシャも走っていた。
こちらに来て……襲われるかと思った。
でも。
ミーシャは違った。
彼女はわたくしとフェイルノートを守ってくれる動作をした。
「お二人とも下がってください!」
「…………! ミーシャさん……あなたは……」
「どうやら、私が犯人だと思われていたようですが、それは誤解です」
「え」
「真犯人はライラです」
鞘から剣を抜き、ライラに刃を向けるミーシャ。
ラ、ライラ!?
「…………」
占い師であるライラが真犯人……そう言われると、彼女はなぜか結婚指輪をしていた。以前、フェイルノートのもとを訪れて購入していたものだろう。
「ライラ、あなたが“結婚式をぶち壊す者”だったのですね」
「……まさか、あらゆる魔法を無効化するフォスフォフィライトを使用されるだなんてね。相手が悪かったかしら……」
まるで認めるみたいに発言するライラ。そうだったんだ。
最初から、そのつもりで近づいてきたんだ。
今までの結婚式もライラがぶち壊していたんだ。
「残念です、ライラ」
「こちらもよ、クリス。よかったわね、幸せになれて」
「さようなら」
ライラは直ぐに拘束され、ミーシャが連れ出していった。
そっか、ミーシャはずっとわたくしとフェイルノートを守る為に全力だったんだ。わたくしの誤解だった。あとで謝らないと。
その後聞いた話によれば、ミーシャは宝石店オープン時に『フォスフォフィライト』を購入していたらしい。けれど、それを結婚式の前日にフェイルノートに託したという。魔法解除の効果があると知っていたから。
そうだったんだ。
ミーシャはずっと、わたくしたちを守る為に。
・
・
・
――結婚式は無事に終わり、わたくしとフェイルノートは結ばれた。
「愛しているよ、クリス」
「わたくしもです、フェイルノート」
改めてキスを交わし、愛し合った。
あれから、ミーシャに謝罪もして万事解決。
ライラは魔女裁判にかけられて一生を牢獄で過ごすことになったらしい。
幸せな日々が続く中、ルドラや旧ガウェイン騎士団の騎士たち眠る墓前へ報告。
フェイルノートと共に全てのお墓を綺麗にし終え、立ち去った。
「さあ、俺たちの宝石店へ」
そっと手を繋いでくれるフェイルノート。
わたくしと彼の指には結婚指輪。
フォスフォフィライトが輝き、祝福してくれていた。
- 完 -
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