宝石店オープン
夜になってもお店の準備を進めていた。
あと少しで商品も並べ終えるところ。
これでもう明日に備えられる。
そんな頃合いに扉をノックする音が響いた。
来客?
いえ、まだオープンはしていない。バルザックかお父様かしら……?
気になって向かうと、そこには見知らぬ女性が立っていた。黒いドレスに身を包み、檜扇を口元に当てている。
「辺境伯令嬢クリスね」
「え、ええ。そうですけれど、なにか御用でしょうか?」
「わたしは、この中央に宝石店を構えるライラと申しますの。つまり、貴女とはライバル関係になるわけですね」
近くに宝石店があったんだ。知らなかった。
そっか、お客さんの取り合いになりそうね。
「そうでしたか。よろしくお願いします」
「ええ。きっと、このお店には人は入らないでしょうけれど。精々がんばってくださいな」
嫌味っぽく言うライラという女性は、背を向けて去っていく。
な、なんなの……!
言われなくたってがんばるし、いいお店にするし!
妙な気分に陥っていると、背後からフェイルノートが。
「どうしたんだい?」
「付近にあるらしい宝石店の方がご挨拶に来たんです」
「宝石店? おかしいな、この辺りにはなかったはずだけど」
「え……」
どういうことかしら。
でも、きっとどこかでお店をやっているはず。負けてはいられない。
◆
翌日。
ついにお店のオープン日!
早朝から新生ガウェイン騎士団の人たちが列をなしていた。その人数、三十……いえ、五十は超えた。
よかった、ガルフォードに相談しておいて!
「さっそく騎士たちが来てくれたね、クリス」
「ええ。みなさん恋人や家族にプレゼントするそうです! 主に恋人に、だそうですが」
「そうか。毎回開催されるお見合いは効果あるようだね」
以前、旧ガウェイン騎士団でもあった。わたくしも参加したっけね。
その行事は新生となっても受け継がれている模様。
おかげで贈り物をしたい騎士たちが来てくれる。
いいタイミングだった。
それに、一般のお客様も続々と来ている。
オープンセールという宣伝を打ったおかげでしょう。
そんな列の向こうにライラの姿も。
「…………」
なんか悔しがっているような。
まずは、わたくしの勝ちね!




