普通ではない新しい人生を
翌朝になり、フェイルノートはお店に連れていってくれることに。
「では参ろうか」
「はい、フェイルノート様」
今日はバルザックが知り合いの採掘業者を訪ねてみると、早朝に出ていった。だから馬車はない。
フェイルノートの馬で向かうことに。
「さあ、手を」
「ありがとうございます」
丁寧に馬に乗せてもらい、わたくしの背後にフェイルノートが。包み込むようにされ、嬉しさと緊張感が増す。
馬はゆっくりと歩き、街中を目指していく。
道に出ると直ぐに注目が集まり、未だにフェイルノートの人気が健在であることを認識する。
「フェイルノート様だわ……!」「カッコイイわね」「一緒にいるのはクリス様ね」「もうあの二人ってお似合いでしかないわ」「認めるしかないわ」「悔しいけどね」「もう結婚するってさ」「そっかぁ」
などなど、以前に比べると批判の声は少なかった。
多分、今まで事件がありすぎたから。
特に元老院との衝突は広くウワサになっていた。
一時はフェイルノートの支持も半分以下に。でも陛下のおかげで名誉回復をして、ひとまず白い目で見られることはなかった。
安心したところで街中に。
帝国の中心街。
かなり人通りの多く、お店もたくさんある大通り。
そんな真ん中に、オープン予定のお店があった。
こんな立地の良い場所が空いているなんて奇跡みたい。
「とても良い場所ですね、フェイルノート様」
「運がよかったんだけどね」
ついに到着。
そこは三階建ての立派なお店だった。なんだか普通に住めてしまえそうな規模だった。
「す、すごいです」
「ああ、ここが俺たちの宝石店だ。さっそく中へ」
馬を降り、そのまま階段を上がっていく。
大きな扉のカギを開錠。開けて中へ。
お店の中はとても綺麗で落ち着いていた。
こんな新築みたいなお店を使えるだなんて信じられない。
「キレイですね~。清掃も行き届いているようで」
「ここの前のオーナーはポーション屋をオープン予定だったんだけどね。残念ながら夢半ばで病死した」
「それは残念ですね……」
「けど、俺に託してくれた。好きなように使ってくれと」
「それで宝石店を」
「そうだ。それに、ここなら三階建てだから住めそうじゃないか?」
「住み込みでお店を? 素敵です!」
というか名案すぎた。
わたくしは、ただ結婚して平凡な毎日を送りたいとは思っていなかった。
むしろ、こんな生活を待ち望んでいた。
今まで血みどろの事件ばかりで、安息なんてなかった。
でも最近は変わりつつあった。
これからはお店を開いて宝石店を営む。
普通ではない新しい人生を、フェイルノートと共に。




