祝福の鐘
フェイルノートのおかげで無事に家へ帰ることができた。
玄関で早々お父様が飛び出してきて心配してくれた。
言葉を震わせ、わたくしの体中を確認する。
「ク、クリス! また襲われたと聞いたぞ!」
「ケガはありません。大丈夫です。フェイルノート様が守ってくれましたので」
彼がいればもう何も怖くない。
今のフェイルノートは、わたくしだけを守ってくれる最高の騎士。
「そうだったか。よくぞ、我が娘を守ってくれた……!」
「いえ、私は当然のことをしたまでです」
彼を賞賛するお父様は、機嫌よく去って行く。
わたくしは手を引かれ、そのままお庭へ。
大事な話があるという。
庭にある椅子に腰かけ、バルザックの淹れた紅茶を飲みながら話をした。
「それで、あの……フェイルノート様。大切なお話とは?」
「うん。しばらく帝国でお店をやらないか?」
「まあ、お店ですか!」
「実は子供の頃の密かな夢でね。ルドラとも話したことがあった」
フェイルノートは、騎士か商人になりたかったらしい。
その夢を今叶えようとしていた。
わたくしも実はそんな夢を抱いたことがあった。
お店というのも面白そうだし、収入源を作っておくのは今後の為にもなる。
「どんなお店を?」
「宝石店さ」
「も、もしかして……」
「そう、クリスが昔くれたルチルクォーツがきっかけでね」
ああ、やっぱり。
わたくしがプレゼントした鉱石で興味を持ってくれたのね。
「丁度いいですね。わたくしは昔から宝石などに興味がありましたので、宝石商ともコネがあります」
「本当かい! ぜひ紹介して欲しいな」
「いいですよ」
後日、その宝石商を訪ねることになった。
そして驚くべきことに『お店』はもう確保済みだという事実が判明した。
フェイルノートは、すでにやる気満々だったのだ。
更に、そのお店が帝国の一番目立つ大通りにあるという。
さすがフェイルノートね。
そんな立地の良い場所を取れるなんて。
きっと稼げるし、きっと楽しい未来が待っている。
「ありがとう、クリス」
「いえいえ。わたくしたちの未来の為に」
「そうだな。俺たちの未来の為に」
フェイルノートは、わたくしの頬に触れそっとキスをしてくれた。
やがて、そっと抱きしめてくれて――幸せしかなかった。
「フェイルノート様……嬉しいです」
「これからは宝石商だ」
「はいっ。一緒にがんばりましょう」
お姫様抱っこしてくれるフェイルノートは、そのまま邸宅の中へ。
その時、教会で鐘の音がした。
まるで、わたくしとフェイルノートを祝福するような、そんな優しい鐘の音。




