ガラティン辺境伯の厳命と自由騎士
すでに手配していたのか、数分後にはルドラが現れた。
そ、そんな……決闘だなんて。
彼は、わたくしの前に立ち頭を深々と下げた。
「クリス様、申し訳ない。だが、この決闘を受けて勝たねば」
彼の強さはこの目で見ているけれど、心配はであった。辺境の騎士ベンジャミンの実力がどれほどか分からないし、そもそも、ルドラとベンジャミンは初めて会うような素振りだった。
「よくぞ参られた、副団長ルドラ!」
「ベンジャミン・トリニティ。お前は“上級”で辺境の地の駐留任務を与えられたはず」
そうだったんだ。
でも、ベンジャミンは肩をすくめる。
「オレは昨晩の任務完了をもって『自由騎士』へ昇格した。それは騎士団長のフェイルノートよりも上の権限を持つ、ガラティン辺境伯の厳命でね」
お父様の……!?
わたくしは、お父様が騎士団に対してどんな仕事をしているか知らなかった。きちんと権限を行使していたんだ。莫大な支援をしているから当然かもしれないけど。
そこまで干渉できるなんて。
「そうか。知らぬ間に貴公は自由騎士に。……了解した」
納得できないような表情をしながらも、ルドラはすぐに切り替えて真剣な顔を作っていた。
「それでは、クリス様を懸けて決闘しよう。ルドラ、お前も彼女を狙っているのだろう?」
「狙う? そうではない。私と彼女ははじめから――いや、今はよそう。それより、場所を変えるぞ」
大叔母様の許可がアッサリ出て、庭で決闘になった。
とても広いから問題はないけど……大叔母様ってば、そんな簡単に決闘を許して……! アレは楽しんでいるに違いない。
そして、きっとベンジャミンの肩をもっているはず。何かしらの秘策を与えている可能性もあった。
そうはさせない。
わたくしも、ただ見ているだけではない。
ルドラに勝ってもらう為にも……そうだ、思い出した。
急いで部屋へ戻った。
棚をあさって“アレ”を探す。どこかにあったはず……!
バタバタと慌てながら、わたくしはソレを見つけた。
「あった!」
この前、記憶が少しだけ蘇った時に思い出したのだ。
子供だった頃に、男の子がくれた『ルチルクォーツ』のブレスレット。微かに覚えている。これは“守ってくれる”魔法のアイテムだと。
直ぐに庭へ戻って、ルドラにブレスレットを渡した。
「これは……!」
「このブレスレットを使ってください。きっと、ルドラ様を守ってくれますから」
「ありがとう、クリス様。おかげで力を貰えた。この勝負に勝ったら、婚約して欲しい」「喜んで」
ルドラは、ブレスレットを腕につけた。黄金に輝くルチル。幸運を齎すと言われているパワーストーン。
きっと、彼を守ってくれるはず。
わたくしは、遠くから二人を見守る。
ルドラもベンジャミンも距離を取り、お互いに剣を抜く。
「…………ベンジャミン」
「ルドラ。お前と剣を交えるのは、これが初めてだ。しかし、この時点でよく分かった。副団長とは名ばかりだな――!」
凄まじい闘気が放たれ、肌がピリピリした。
こ、これがベンジャミンの……。
なんてオーラなの。近寄れないほどの威圧感。まだ睨み合っているだけなのに、わたくしは気絶しそうになった。
意識をしっかり持たないと……。
そうして、二人の決闘ははじまった。