約束された結婚
翌日。
これで本当に最後のゲーム。
フェイルノートと共に馬車へ乗り込み、お城へ向かう。
その道中で彼は宣言した。
「今日の結果に関わらず、クリスと結婚する」
「……本当ですか!」
「ああ。どうなろうと関係ない」
「では、帝国から追われることになっても、わたくしと同じ道を歩んでくださるのですね」
「もちろん。騎士団長の地位はガルフォードに譲る気だ。俺はもう団長を引退する」
と、決意堅めに語った。
正直、わたくしは嬉しかった。
フェイルノートがそう言ってくれて。
もう未来は約束されたようなもの。
陛下がどう出ようとも、もうわたくしとフェイルノートを阻むことは不可能。
だけど勝負から逃げることはできない。
どうせなら勝って終わりにしたい。
お城につき、いつものように奥の部屋へ。
そこにはいつもと違う格好をした陛下の姿がいた。まるで『騎士』の姿だった。
「きたか、クリス。そして、フェイルノートよ」
「……陛下。なぜそのような姿を」
「最後のゲームはもう決まっているのだ」
「え……」
「クリス。最後は“決闘”だ」
「まさか……本気で?」
「うむ。最後は剣と剣を交えるのみ。本物の剣でな」
そ、そんな!
皇帝陛下と決闘だなんて……!
「し、しかし」
「案ずることはない。これでも私はそこのフェイルノートから剣を教わっている」
そうだったんだ。
「戦うしかないのですね」
「そうだ。相手から一本とれば勝ち。実にシンプルであろう」
「……解かりました。受けます」
「よい返事だ。では着替えてくるといい。そのままでは動きづらいであろう」
「はい」
これで決着をつける。
陛下がどれほどの実力か分からないけれど、これで勝てばそれはそれで話題になって、もうわたくしとフェイルノートの仲をどうこうしようする者など現れなくなるはず。
負けても駆け落ちするだけ。
だから、出来れば勝とうと思った。
いや勝たねばならない。
その方がより幸せを掴めるのだから。
わたくしは別室で着替え、軽装に。
剣を借りて、いざ陛下の前に立った。
「準備はできたようだな、クリス」
「陛下。本当によろしいのですね」
「いいとも。万が一にも命を落とせば、それも運命だ」
「そこまでのご覚悟ですか……」
「ああ。私は退屈していたのだよ」
「え」
「毎日部屋に閉じこもっているばかりの人生。だが、お前は毎日のようにトラブルに巻き込まれ、そして愛されている……羨ましかったんだよ」
目つきを変え、鞘から剣を抜く陛下。
そして、それらしく構えていた。
……こ、これはフェイルノートの構え。
ならば、こちらも。
「いいものではありませんでしたよ。死んでいった仲間もいますし」
「そうだな。元老院の不祥事であった。ガウェイン騎士団には同情しよう。しかし、退屈凌ぎにはよかったであろう」
「なんでそんな風に言うんですか!」
「そうだ。もっと感情を爆発させろ。クリス、お前の本当の愛を見せてくれ」
……今日の陛下はおかしい。
どうしてこんな煽るようなことばかり。
いえ、冷静になるのよわたくし。
きっともう勝負は始まっているのよ。




