婚約をかけた戦い
陛下の取り出した五枚のカード。
その中に一枚だけ『騎士』のイラストが描かれていた。それ以外は白紙。
「ルールは極めて単純さ。カードをシャッフルし、テーブルに並べる……先に『騎士』のカードを引いた方が勝ち。それだけの運のゲーム」
そういうことね。
本当に運だけのゲーム。
わたくしと陛下は別の方向を向き、カードのシャッフルはフェイルノートが担当。
少ししてテーブルにカードが並べられた。
「いいぞ」
振り向くと、裏向きになっている五枚のカードが。この中から先に『騎士』のカードを引き当てなければならない。陛下よりも先に。
しかも意外なことに陛下は。
「クリス、先に引いていいぞ」
「え…………」
どうして。
先行は有利といえば有利なはず。五分の一だけれど、先に引いてしまえば勝ち。
それとも自信があるというの?
「もちろん、先に引けばクリスの勝利だ。だが、ここで引けねば……私の勝利であろう」
「……っ。そ、それは分かりませんよ。これでも、わたくしは運が良い方なんです」
「そうか。それは期待しよう」
なぜか先行を譲ってくる陛下。でも、ありがたく引かせてもらうことにした。一発で決めれば、わたくしの勝利。
婚約や結婚のことで、とやかく言われる筋合いはなくなるはず。
ならば、手を伸ばす。
五枚の内のどれかに。
……どうする。
一番左?
左から二番目?
真ん中も怪しい。
それとも一番右か。右から二番目か……。
どれ、どれを選べばいいの。
なんとなく一番左に手を伸ばす。
「…………」
「どうした、クリス。相当悩んでいるようだが」
「そ、それは…………」
ふと陛下の顔を伺うと、不敵に笑っていた。
え、どういうこと。
その表情はどういう意味なの?
もしかして、陛下にはどれが『騎士』のカードなのか解かっているの……?
カードの裏面になにか目印とか。
よく見ても解からない。
小さいものなら、この短時間で見極めるのは難しい。
このカード、運だけではないということなの。
でも、引かないと……。
「さあ、どうした。引かねば時間切れで敗北にしてもいいのだぞ」
「わ、解かりました。引きます」
一番左が気になっていた。
このカードをめくる…………。
…………!
それは白紙のカードだった。
そんな!
「残念だったな、クリス。運の女神は微笑まなかった。ならば、今度は私の番だ」
陛下は迷いなく一番右をめくった。は、早い。
でもそれは『白紙』だった。
「…………っ」
「おやおや、私もまだ運に見放されているようだな」
……なんて緊張感なの。
残るカードはあと三枚。
この中に『騎士』のカードが。わたくしが引かねば!




