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お見合いと決闘

 マイナのウソは見抜かれた。妹は(あわ)てた様子で逃げ、どこかへと消えた。

 追いかける者は誰一人いなかった。


 お父様は呆れるばかり。指先で眉間(みけん)を押さえ、深いため息すら吐いていた。



「……まったく、マイナのホラ吹きには頭を抱えるばかりだ」


 執事のバルザックを連れ、お父様は書斎を離れた。

 再び静かな時間が戻り、わたくしは安堵(あんど)した。……よかった。泣きそう。


「大丈夫かい、クリス」

「ありがとうございます、ルドラ様。……でも、どうして?」


 ルドラは少し悪戯(いたずら)っ子のように微笑んだ。


「それは秘密さ。いずれ話すこともある」


 秘密……なんだ。でも、いつか話してくれるのなら、その時を待とう。きっと打ち明けてくれる日があるはず。



 * * * * *



 ルドラとの閑談(かんだん)を終え、有意義な時間を過ごせた。これほど楽しく会話できたのも久しぶりかもしれない。

 思えばローウェルの時は、騎士の訓練だとか遠征だとかで一緒に過ごす時間がほとんどなかった。


 副団長ともなると面倒な仕事は、部下に任せられるようで時間に余裕があるようだった。


 これからも会ってくれると約束してくれた。



「あの、明日も……」



 門の前で見送るわたくしは、子供のように強請(ねだ)っていた。……なんて、はしたないことを。

 直後になって恥ずかしさが込み上げ、ちょっと後悔した。


 でも彼は、ネモフィラのような(さわ)やかな笑顔で「もちろんだよ」と答えてくれた。まるで少年のような――。



 …………あ。



 もしかして……男の子。


 彼なのかもしれない。


 少しだけ、ほんの少しだけ記憶の断片が(よみがえ)ってきたかもしれない。


 けれど、なぜ、わたくしは忘れているの……?


 思い出したい。

 ルドラの為にも、全てを。




 相変わらずマイナは姿を現さない。

 わたくしもお父様もあまり気にしてはいないけれど。

 執事のバルザックやメイドたちが一応、邸宅周辺を探してくれていた。


 この頃のセンチフォリア帝国は、少々治安が悪化している。最近では、殺人事件も起こっているほどに。

 だから、夜は絶対に出歩くなとお父様から口酸っぱく言われていた。


 そう思うと、少しばかり心配な部分もあった。




 次の日の朝を迎えても、マイナは帰ってこなかった。まさか、家出? 今まで一度もそんな馬鹿な真似をしたことがなかったのに。

 昨日のことを、そんなに引きずっているのかな。


 ベッドから降り、寝間着(ネグリジェ)からお気に入りのブルーのドレスに着替えた。


 部屋を出て少し歩くと、大叔母(おおおば)様が奥から現れて、わたくしを呼び止め止めた。



「クリス、丁度いいところに」



 百歳というご高齢なのに、とてもピンピンしていて健康体。本人曰く、あと五十年は生きると豪語(ごうご)する、とんでもない大叔母(おおおば)様である。



「お、おはようございます。なんでしょうか?」

「聞いたわよ。あなた、ガウェイン騎士団のローウェルと婚約破棄し、次は副団長のルドラに目をつけたようね」


 さすが地獄耳。情報が早いというか、もう知っているのね。

 もともとローウェルのことも大叔母(おおおば)様が推していたこともあった。でも、今回失敗に終わって気分を害しているようだった。


「そんなつもりは……」

「ミステル家の名に恥じぬよう慎ましく行動しない。よろしいですね」


「は、はい……」


 なんで朝から説教を受けねばならいの~…。

 直ぐに立ち去ろうとすると、大叔母(おおおば)様は大鷲(おおわし)のような鋭い眼光をわたくしに向けた。



「クリス。あなたは今日、辺境の騎士ベンジャミン・トリニティとお見合いしなさい」

「え……」


「いいわね! 返事は『はい』よ」


「…………はい」



 大叔母(おおおば)様には逆らえない。もし反抗しようものなら、ヒドイ目に遭う。それは子供の頃の教訓から学んでいる。

 下手に刺激し、逆鱗(げきりん)に触れれば手が出ないこともない。昔から面倒事は避けるタイプのわたくし。

 なので、ここは素直に従った。



 辺境の騎士ベンジャミン? 興味ないわ。



 話を適当に合わせて破談にしましょう。それが無難に終わる方法なのだから――。



 * * * * *



「今日も大変お美しいございます、クリス様」

「ありがとう、バルザック」


 身なりを整え終え、面倒なお見合いに向かわなければならなくなった。

 本当ならルドラと楽しい時間を過ごすはずだったのに。


 もうすぐ辺境の騎士はやってくる。どうでもいいけど、でも、大叔母(おおおば)様に――いえ、ミステル家に泥を塗るわけにもいかない。


 特にお父様にはよくしてもらっているし、その恩は感じていた。


 せめて、表面だけでも取り繕っておこう。そう思った。



 やがて時間になり、その騎士は現れた。



「はじめまして、クリス様。オレはベンジャミン・トリニティ。あなたを奪う為、ガウェイン騎士団の副団長ルドラと決闘を果たしにきました」



 ベンジャミンは、黄金に輝くの髪をオールバックに(まと)めた好青年だった。細身な体躯(からだ)の中には、(きた)え上げられた肉体が垣間(かいま)みえた。

 辺境の騎士というくらいだから、下級の騎士かと勝手に思っていた。けれど、そこにいたは自信に満ち溢れた堂々とした男性。


 わたくしの手の甲にキスの挨拶を――って、まって。



「――はい?」



 突然の『決闘』宣言に、わたくしは首を(かし)げた。この殿方はなにをおっしゃっているのかしら……?


 ルドラと戦うってこと?


 なんでそうなるの……!

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