嫌な予感
今は待ち続けるしかない。
彼を。愛するフェイルノートを。
夕刻。
邸宅の二階で茜色に染まる空を眺めていると、背後から人の気配を感じた。振り向くと、そこにはガルフォードの姿があった。
彼は真面目な表情のまま、わたくしの隣に。
「フェイルノート騎士団長が心配なのですね」
「ええ。間に合ってくれるといいのですが……」
「大丈夫です。騎士団長はいつだって我々の期待に応えてくれました」
「そうですね。わたくしも何度も助けられました」
今の状況はとても良いとは言えないけれど、それでもここまで無事に導いでくれた。そして、何度も何度も愛してくれた。それだけで十分。
「……クリス様」
「どうしましたか?」
聞き返すとガルフォードは複雑そうに視線を落とす。
「僕は嫌な予感がしているんです」
「え……」
「恐らくですが、アンジェリクス議長は……なにか恐ろしいことをするのではないかと」
その恐ろしいこと。
わたくしも少しだけ感じるものがあった。
ただこのグラストンベリーを攻めてくるだけではないはず。
恐ろしい魔法や兵器、そんなものを使ってくるかも。
「ここを離れるべきでしょうか。みなさんを巻き込めません……」
「いえ。我らが必ずお守り致します。どうか信じてください」
「でも……」
「――ですが、万が一ということもあります。脱出ルートを作っておきましたので、ご案内します」
脱出ルート? いつの間にそんなものを作っていたのだろう。
「解かりました。教えてください」
「ではこちらへ」
ガルフォードについていく。
邸宅を出て裏庭へ。
そこの茂みの中に地下に通じる小さな扉があった。
「……これが」
「はい。ここからグラストンベリーを脱出できます。マクレオス王国の方角へ続いているので、いぜとなれば王国を頼って下さい」
「ありがとう。ですが、フェイルノート様が戻ってくるまでは使うつもりはありません」
彼を置いてなど行けない。
わたくし一人では生きていけない……。
「ええ。それまでは僕が全力でお守りしますので」
「お願いします、ガルフォード」
そして、夜を迎え……次の日の朝。
とうとう期限の日。
アンジェリクスがモルドレッド騎士団を率いてくるはず……。
フェイルノートは間に合わなかったの……?
「クリス様……!」
その時、ガルフォードの声が響いた。彼が帰ってきたの?




