直接交渉へ向かう騎士団長
危機的状況なのを忘れ、チョコレートのように甘い時間を過ごした。
フェイルノートは、わたくしだけを見つめて愛してくれた。
とてもとても幸せな二日間を送れた。
ガウェイン騎士団のみんなとも仲良くなった。
いつの間にかガルフォードとは友達のような仲になっていた。
「……これを僕に?」
「はい。ガルフォードに差し上げます」
わたくしは、彼にパワーストーンであるルチルクォーツをプレゼントした。お守り代わりに。
「美しい金色……神秘的ですね。勇気を戴けました。ありがとうございます」
嬉しそうに微笑むガルフォードは、右腕にブレスレットをつけた。こんな砕けた表情を見せるようになるとは驚いた。
出会った時は真面目そのもので、氷のように冷たい人かと思ったのに。
一歩邸宅を出れば、騎士たちがわたくしの存在に気づいて。
「こんばんは、クリス様」「今日もお美しい」「フェイルノート騎士団長とは順調ですか?」「貴女を必ずお守り致します」「グラストンベリーの守護をお任せください」「罠が沢山ありますので森には近づかないように」
と、みんなが積極的に話しかけてきた。
以前よりも結束し、交流もより深まり、ちょっとだけ家族のようにも思えていた。
庭に出るとバルザックが庭師の仕事をしていた。
「お嬢様」
「バルザック、お父様と大叔母様はどうかしら?」
「主様も大叔母様も、無事にアルフォネス大佐のマクレオス王国に到着致しました」
「よかった。二人は無事なのね」
「はい。建前上は“視察”ということになっております」
もちろん、実際は亡命と言うべきかもしれない。けれど、我が家・ミステル家が完全に終わったわけではない。今はリスクヘッジを取っておくべきだ。
「それで謁見の方は? 明日が期限よ」
「……上手くいっていないようです」
「……なんてこと」
このままでは一方的に攻められて全滅しかないかも。
不安が過っていると、フェイルノートが邸宅の奥から現れた。
「クリス。俺は帝国に向かうことにした」
「えっ……」
「期限は明日。ならば、もう直接交渉しかないだろう」
「でも、危険すぎます! モルドレッド騎士団に見つかったら……捕まって処刑されてしまうのでは!?」
「大丈夫だ。俺は捕まる気はないし、必ずクリスのもとへ帰る」
真っ直ぐな瞳。
彼はいつだって、わたくしのもとに帰ってきてくれた。
信じる。信じている。
だから。
「解かりました。お願いします」
「ありがとう、クリス」
「あ、もしもアンジェリクスに会うことがありましたら『婚約破棄なんてしません』とお伝えてください」
「もちろん。――では、早朝には帰る」
そのまま厩舎へ向かうフェイルノート。彼ならきっと陛下に現状を伝えてくれるはず。
祈るしかない。




