皇帝陛下へ交渉
騎士達は戦に備えて、この辺境の地グラストンベリーの周囲全てに罠を仕掛ける作業を進めていた。
緊急の逃げ道も確保したり、準備を進めていく。
恐らく全員が帝国との戦争になると察していた。
そして、ひとりひとり覚悟が決まっていた。
「ご安心ください、クリス様。我々が必ずお守り致します」
ガウェイン騎士団の青年騎士が笑顔で作業へ向かう。
気持ちは十分に嬉しいけれど、でもモルドレッド騎士団と命を懸けて戦うということ。もしかしたら、命を落とすかもしれないのに。
この戦いに大義名分は……ないかもしれないのに。
いっそ、二人で逃げる方がいいかも。
「フェイルノート様。わたくしたちだけでどこかへ逃げましょう。そうすればきっとガウェイン騎士団だけでも生き残ります」
「いや、ここで敗北を認めればアンジェリクスは、ガウェイン騎士団を潰してモルドレッド騎士団への統合を進めるはず。……そう、これは騎士団と騎士団の戦いでもある」
「味方同士で戦わなければならないのでしょうか」
「もちろん、水面下では皇帝陛下に謁見を求めている。交渉が上手くいけばアンジェリクスは議長の座を降りることになるだろう」
そうだったんだ。それが大きなカギとなりそうね。
三日以内に皇帝陛下に話が通れば、戦うことなく無血で事を終えられるはず。
「祈るしか、ないのですね」
「ガウェイン騎士団を信じてくれ」
「解かりました」
そんな会話をフェイルノートしていると、騎士が駆けつけてきた。ガルフォードだ。
「ご報告に参りました」
「頼む」
「アルフォネス大佐が帰国中に奇襲を受けたようです」
「なんだと……」
「しばらく国へ戻ることも、こちらへ戻ることもありませんでしょう」
奇襲、それはきっとアンジェリクスの刺客と予想できる。グラストンベリーの情報を入手しているんだ。だから、メドラウトを派遣できたのでしょう。
思ったよりも、自分たちは後手後手のようだった。
これは辛い状況ね。
「あの、ガルフォードさん」
「なんでしょう、クリス様」
「陛下に謁見を求めている騎士は、大丈夫なのでしょうか?」
「ええ。今のところアンジェリクス議長に悟られておりませぬ。彼は、ガウェイン騎士団の騎士ではありますが、今は貴族として振舞っておりますゆえ」
――なるほど、騎士の身分を伏せているので安心しろということね。それなら、きっと大丈夫。
「ありがとうございます」
「いえ。では、報告は以上になります」
静かに去っていくガルフォード。彼も罠を張りに向かった。
「我々も備えておこう、クリス」
「わたくしは何をすればいいのでしょうか?」
「今の内に二人きりの時間を過ごす」
「えっ……ええっ!」
予想外のことに、わたくしは心臓が高鳴った。
確かに、今は二人きりだけれど。
そ、そっか。
戦いになる前に愛し合っておこうということね。……なんて嬉しいの!




