婚約破棄しないし!
辺境の地グラストンベリーに移って更に三日後。
帝国から警告の手紙が届くようになった。
内容は『婚約破棄せねばグラストンベリーに攻め込む』と、要約するとそんな内容だった。
「アンジェリクスは、この辺境の地を襲うかもしれない」
固い表情で手紙をロウソクの火に当てるフェイルノート。三枚、五枚と日に日に増えている警告文。それを呆れたように燃やして処分する。
「いつかやって来るのでしょうか」
「かもしれないな。適当な理由をつけて俺を捕まえにくるはずだ」
「そんな……悪いことなんて何もしていないのに」
「もはや元老院は機能していない。戦うしかないだろう」
きっとその日がくるかもしれない。
でも、そうならないことを祈りたい。
不安の中でガルフォードが現れ、フェイルノートにいつものように報告していた。
「失礼します。フェイルノート騎士団長」
「動きがあったか?」
「はい。モルドレッド騎士団がグラストンベリーに向かっておきております」
「早かったな。戦闘になりそうか」
「いえ、メドラウト騎士団長と数名の騎士しか見当たりません。恐らく、話し合いに来たのかと」
「解かった。通してくれ」
「承知しました」
モルドレッド騎士団メドラウト騎士団長……ここへ来たのね。直接ということは、もしかして“最後の通告”ってことなのかしら。
そうなれば、グラストンベリーは戦場と化す可能性が。
それかこちらから交渉してメドラウトを説得するか。そうすれば、元老院も戦力を失って恐慌状態。こちらの有利になる。
ここは話し合いでメドラウトを上手く引き込む。今出来ることはそれくらいしかない。
しばらくして邸宅にメドラウトが現れた。
帝国では一瞬しか顔を見れなかったけれど、そこに現れたのは高身長で細身の男性だった。ワインレッドの髪を肩のあたりまで伸ばし、ルビーのような赤い瞳をフェイルノートに向けていた。
「元気そうではないか、フェイルノート」
「……メドラウト。戦いに来たのか?」
「今日は……そうだな、元老院の使者として来たというところだ」
「向こうはなんと?」
「手紙の通りだ。さて、婚約は破棄する気になったかな?」
今度は、わたくしの方を見つめるメドラウト。優しそうな人に見えるのに、今は怖く感じた。……なんだろう、この胸騒ぎのようなもの。
恐怖とはちょっと違うような。
……って、婚約破棄しないし!




