ウソはバレる Side:マイナ
◆Side:マイナ
お姉さまはズルい。
どうして、お姉さまばかりに騎士が振り向くの……!
わたしは自ら動いて話をして、ようやくお付き合いいただけるのに。しかも階級が下の下の底辺騎士ばかり。そんな相手では満足できないッ。
上級騎士あるいは副団長、許されるのなら騎士団長のフェイルノート様がいい。
でも、今はお姉さまは副団長のルドラ様と接近している。……許せない! あの方は、わたしが狙っていたのに。
せっかくローウェルとの仲を終わらせてやったのに、今度は副団長って、ありえないわ。
いつもいつもお姉さまばかり得をして、本当に悔しい。
子供のころからそうだった。
なぜか身分の高い男の子は全員、お姉さまに話しかけていた。わたしは完全に蚊帳の外で、顔もよくなければ無駄に体型が肥えている“あまりもの”しか残っていなかった。
ヒドイわ!
神様は、なぜわたしにばかり厳しいの。
わたしだって……わたしだって、もっとカッコイイ殿方とお付き合いしたい!
だから。
だからお姉さまのことが心の底から憎かった。
…………殺したいほどにね!
でも、亡き者にしても一瞬の出来事。それでは、わたしの積もりに積もった、この積年の恨みは晴らせない。
なので、お姉さまとルドラ様の仲を引き裂く為にも……お父様に『ウソ』を吹き込んだ。
「……ふむ。副団長のルドラが“女たらし”だと申すのだな」
「はい、お父様。このままではお姉さまがまた不幸にな目に。だって、つい最近ローウェルのことがあったばかりではありませんか!」
「そうだな。ガウェイン騎士団は本来、誉れ高き騎士たちの集まり。……しかし、ローウェルのような騎士が不正を働いて不祥事を起こしている事実もある」
窓の外を眺め、お父様は深いため息を吐く。
辺境伯であるお父様は、騎士団に莫大な支援をしていた。センチフォリア帝国の発展の為にと。
そして、見返りに強くて逞しい騎士をクリスお姉さま、そして、わたしと婚約させたいと――まるで夢物語のように語っていた頃があった。
それは現実となり、お姉さまはローウェルと順風満帆な人生を送ろうとしていたけれど、わたしが許さなかった。
そうよ。そんなに甘くはないわ。
ひとりだけ幸せになろうだなんて……!
「でしょう、お父様。このままではお姉さまが可哀想です」
「解かった。愛しの娘にこれ以上、不幸になって欲しくない。ルドラに接近禁止命令を下す」
当然、お父様は騎士団に口出しできる権限を持つ。しかも、お姉さまを溺愛しているから、これ以上の事態悪化は看過できない。
これで、お姉さまとルドラ様の仲はおしまい……!
やった!
ルドラ様は、わたしのものね!
最高の気分で『書斎』へ向かう。
きっと今頃、お姉さまとルドラ様はコソコソとこれからについて話しているのでしょう。でも、もう終わり。あなたたちの関係はもう絶たれるの。
あぁ、気分爽快。最高の日になりそうだわ。
カギを持つお父様と共に書斎へ入った。
部屋の中には、驚く姿のお姉さまとルドラ様。……あぁ、ルドラ様。カッコいい。あんな薄倖のお姉さまとなんて、もったいないわ。
「マイナ!」
「お姉さま。ルドラ様と離れてください。これはお父様の命令ですよ」
「……え」
クリスお姉さまは、お父様の顔を伺う。
「クリス……副団長のルドラと――」
そう、お父様は『接近禁止命令』を下す。
またひとりぼっちになってしまいなさい、お姉さま!!
「申し訳ございません、辺境伯」
「む……ルドラ。言い分なら聞かぬぞ」
「少しお耳を拝借」
「……なんだ、貴様。……む? なんだと!? そうか、そうであったか……」
お父様の態度が急変し、怒りに満ちていた表情が穏やかになっていく。……え、なに? ルドラ様は何を話したの?
立ち尽くしていると、お父様はわたしを睨む。え……?
「ど、どうされましたか?」
「マイナよ、ウソを吹き込むとは何事か」
「え……お父様。えっと……それは…………」
な、なんで……見破られたの? ていうか、なんでルドラ様が耳打ちしただけで……そんな、ありえない。だって、えっと……。
お姉さまも、なんでそんな目でわたしを見るの!!
もう嫌!!
わたしは、書斎から逃げるように立ち去った。……憶えていなさいッッ! 次こそは不幸のどん底に叩き落してやるッ!