辺境の地グラストンベリー
辺境の地グラストンベリーは、かなり遠い場所にあった。
帝国を離れて半日以上もかかった。
まさかこんな大移動になるなんて……。
「到着いたしました」
バルザックの疲れたような声で目覚めた。
さすがに眠ってしまっていた。
「お疲れ様。クリス、ではさっそく」
「ええ、フェイルノート様」
馬車を降り、その辺境の地を自身の目で確かめる。
そこは思ったよりも開放的で、小さな街並みがあった。辺境の地と言うくらいだから、もう少し村っぽいかとイメージした。
でも、グラストンベリーは違った。
明らかに貴族の邸宅がいくつも建っていた。
そして、美しい花畑。どこまでも続く。
「さあ、こっちだ」
フェイルノートの後をついていく。どこかに使える家があるのかな。
ある場所に辿り着いた。
そこは帝国にある建物と遜色ない邸宅があった。
辺境はもっと控えめかと思ったけれど、その認識は改めた方が良さそうね。
お花畑にある道を歩いていく。
玄関を抜け、ついに建物の中へ。
「広いですね」
「ここはガルフォードの実家さ」
「えっ、ガルフォードさんの……?」
「ああ、本当は俺の別荘を使いたいところだが、直ぐに特定されるだろうからね」
なるほど、さすがフェイルノート。
元老院もガルフォードの実家に、わたくしとフェイルノートがいるとは思わないはず。
だからこそ、ここを選んだわけなのね。
通路の奥から軍服を着た若い男性が現れた。騎士ではなく、軍人がいるなんて。
「よくぞ来られた、フェイルノート」
「お久しぶりです。アルフォネス大佐。彼女は辺境伯令嬢クリスです」
「ほう、ウワサの令嬢かね。なるほど、これは大変お美しい」
真っ直ぐな瞳を向けてくるアルフォネスという男性。とても威厳があって、お父様を相手しているような雰囲気だ。
「はじめまして。お世話になります」
「私はマクレオス王国という小さな国を統治している。だから、このような格好で大佐という階級なのだ。弟のガルフォードは騎士の道を選び、帝国へ下ったがな」
そういうことなのね。この家は少し複雑なのかもしれない。
どうやら、今はたまたまこのグラストンベリーへ戻ってきていたようで、明日には帰るとのことだった。
アルフォネスは、わざわざ家の中を案内してくれた。怖い人かと思ったけど、丁寧で優しかった。
「全部使っていいのですね、大佐」
「もちろんだ、フェイルノート。お前は、我が弟を大切にしてくれているからな。いざとなればマクレオス王国に歓迎しよう。だが、帝国の元老院が口うるさくて敵わん」
もうすでに手が及んでいる、ということなのね。
広い寝室を貸してもらえることになった。
しかも、フェイルノートと一緒。
これなら安心ね。




