婚約拒否された元老院議長の憎しみ Side:アンジェリクス
◆Side:アンジェリクス
「元老院議長の就任おめでとうございます。ですが、婚約は出来かねます」
ガウェイン騎士団の騎士団長フェイルノートは、祝福しながらも険しい表情を見せた。
ようやくこの地位まで上り詰めたというのに、まだ私に靡かないというの……!
彼は、多くの女性を虜にした。
私もそんな一人だった。
オルフェリア家の長女にして、宮中伯令嬢アンジェリクス・オルフェリア。
20歳を迎えるまで恋愛に一切興味がなかった私が唯一、フェイルノートだけは好きになれた。素顔は仮面で分からなかったけれど――ある日、偶然顔を見てしまった。とてもイケメンだった。
弟の副団長ルドラと同じ容姿。
双子なのだから当然なのだろうけど、元老院議長になってから彼が戦死していることを知った。
重要な機密情報を簡単に閲覧できるようになったからだ。
つまり、フェイルノートは弟のルドラを演じている。
弟の死を隠し、ガウェイン騎士団をうまくまとめているようだった。
でなければ、騎士たちの士気はとっくに低下して崩壊に向かっていたはず。
そもそも活躍していたのはルドラ。
フェイルノートに、ルドラほどの実力はない。
でも、それでもフェイルノートは努力によって今の地位を築き上げた。それだけは認めなければならない。そんな努力家なところにも惚れた。
「フェイルノート、私と結婚すれば一生安泰ですよ」
「好きな人がいるんです。いえ、もうすでに彼女とは婚約済みですから」
「……なるほど」
おそらく辺境伯令嬢クリス・ミステルのことでしょう。
彼女の噂は最近、嵐のように帝国中を駆け巡っていた。
元婚約者のローウェル、妹のマイナやヴァレリアと色々トラブルがあったよね。
なぜ、あんなツマラナイ女ばかりが注目を浴び、話題になるの。
私は女性初の“元老院議長”よ。あんな女よりも崇められるべきじゃない……?
フェイルノートも、なぜクリスのような芋臭い女が好みなの。ワケが分からないわ。
「では、私はこれで」
「待ちなさい、フェイルノート」
「……」
「ひとつだけ忠告しておきましょう」
「……?」
「この先は“地獄”ですよ。私の手を取ればまだマシな生活が送れるでしょう。そうそう、クリスは命くらいは助けてあげましょう」
「申し訳ない、アンジェリクス議長。私は愛する人の元へ向かいますので」
彼は氷のように冷たい表情で去っていく。
…………そう。
それが、あなたの答えなのね。
解かったわ。
そう、そんなに“地獄”が見たいのね。
いいわ、この憎しみを。
あなたに不変の愛憎を――。
フフフ。
フフフ……フェイルノートは私のもの。
クリス、あなたは『処刑』よ、『処刑』……!




