婚約拒否
元老院を早々に立ち去ったわたくし。
アンジェリクスは議員ではなく“議長”の座に就いていた。
そんな話、まったく耳にしていなかった。
確か、以前は男性で老人だったはず。
急いでガウェイン騎士団へ向かう。
でも会合で会えないかもしれない。それでも向かった。
馬車の中でバルザックに聞いた。
「ねえ、バルザック」
「はい。どうなさいましたか?」
「アンジェリクスはいつ元老院の議長になったの?」
「それは……」
そう聞くと、難しい表情をするバルザック。どうやら、彼には情報が入っているようね。
「いいから教えてちょうだい」
「解かりました。実は、前議長のセルディック様は三日前に亡くなられたのです」
「え……」
そうだったんだ。確かにご高齢の方だったようだし、体調もよくないとお父様から聞かされていた。それくらいの情報しかなかったけど……そうだったの。
だから、アンジェリクスが議長に?
でも、就任がいくらなんでも早すぎる気が。
「お嬢様。アンジェリクス様が元老院議長になったことに疑問を抱かれているのですね?」
「そう。あの人、わたくしに婚約破棄しろって迫ってきたの! おかしいと思わない!?」
「なるほど。若くして議長になられたことは驚きです。ですが、アンジェリクス様はもともとフェイルノート様と婚約する予定があったそうです」
衝撃的な事実を知り、わたくしは唖然とした。……婚約する予定があった?
「どういうことなの?」
「あくまで予定でした。聞いた話によると、フェイルノート様の御父上様が取り計らったそうです」
そういうことだったのね。
お父さんとアンジェリクスの家でヤリトリがあったに違いない。
でも、フェイルノートは拒否したようだった。どうして?
「破談になったのね」
「ええ。フェイルノート様自身が婚約を拒否。……クリス様を愛しているからと」
「……ッ!」
嬉しくて涙が出そう。フェイルノートは、やっぱりわたくしを愛している。ずっと思ってくれているのね。
それだけで十分元気が出た。
アンジェリクスに負けてなるものですか。
がんばらなくちゃ。
ガウェイン騎士団の本部前に到着。
馬車を降りて騎士団の敷地内へ。最近は顔パスで入れるようになった。
「ようこそ、クリス様。お通りください」
「ありがとう。会合はどちらで?」
「この奥にあります会議室となります」
通路を真っ直ぐ歩いてその場所を目指す。大きな扉が見え、そこで話し声が聞こえた。結構な人数が同席しているようだった。
この中にフェイルノートがいるはず。




