元老院『婚約破棄しなさい』
元老院へ向かい、大きな建物の中へ。
厳重すぎる警備の中を取っていき、広い通路を真っ直ぐ歩いて行った。
やがて見えてくる会議室。
円状に広がる席と元老院議員専用の席。
圧巻で壮観である。
聴衆はいない。
そこにいるのは議員三名のみ。
その内の女性議員だけ見覚えがあった。
あの方は確か、わたくしの邸宅にも来たことがある。ほんの少しだけ挨拶を交わした程度だけれど。
名前は確か『アンジェリクス』。
「よくぞ参られた、辺境伯令嬢クリス」
「……アンジェリクス議員ですよね」
「その通り。憶えていたようですね」
「そのご用件は?」
恐る恐る聞くと、隣の議員は顔を青くしていた。もう一人も同じように怯えていた。……え、どういう表情なの、それ。
なぜ、そんなにも恐怖しているのだろう。
「クリス。あなたはガウェイン騎士団のフェイルノート騎士団長に相応しくありません」「え……」
「よって、貴女とフェイルノート騎士団長の婚約を却下。接近禁止命令を下します」
まるで裁判のような口調でアンジェリクス議員は、そう意味の分からないことを下した。……は?
どういうこと?
「なにを仰っているか分かりません」
「では、もう一度。貴女とフェイルノート騎士団長の婚約を認めません」
シンプルにそう言い放つアンジェリクス議員だけど、やっぱり意味が分からなかった。なんなの……どうして、そうなるの!
「理由は!?」
「彼はこの帝国の英雄。騎士団長をあなた程度の者とくっ付けるワケにはいきません」
「わたくしとフェイルノートは愛し合っています!」
「それは関係ありません。今必要なのは、貴女とフェイルノートの婚約破棄。国益を考えるのなら、これ以上の関係は望まぬことです」
冷静に、冷血に、感情のない言葉でアンジェリクス議員は言い放つ
なんなの、この女。
言っている意味が一言も分からないし、意味不明。支離滅裂すぎて吐き気がする。
こんなのが議員だなんて、元老院はどうかしているわ。
「お断りします」
「なんですって?」
「お断りすると言ったのです。アンジェリクス議員、貴女はわたくしに空気を吸うなと言っているようなものです。これは立派な人権侵害では?」
「国益の為です」
それを盾にすれば許されると思っているの?
ふざけているわ!
もういい。こんな場所にいても時間の無駄。
「帰ります」
「それは婚約破棄をするという判断でよろしいですね」
「そんなわけないでしょう! アンジェリクス議員、貴女を訴えます!」
「それは不可能でしょう。“元老院議長”は不可侵ですから」
なっ……いつの間に元老院議長に?
このままではマズイわ。
フェイルノートにこのことを話さなくちゃ。




