さようなら、副団長代理
ミストレアとの決闘から一週間。
あれから随分と時間が経ったような気がする。
毎日のようにフェイルノートを見舞い、回復を祈る日々。
幸いにもわたくしの治癒で重症には至らなかったけれど、しばらくは安静となった。
命が無事でよかった。
もし奇跡が起こらなければ今頃は――。
少しして、我が家にガウェイン騎士団の男性騎士が現れた。彼の名はガルフォード。少年のように愛らしい容姿をしている。たまにの報告の為にやってくるのだ。
「ご報告致します」
ベッドで横になっていたフェイルノートが半身を上げる。
「頼む」
「ミストレア元副団長代理の処分が決定いたしました」
「ついにか。詳しく教えてくれ」
「ミストレアはガウェイン騎士団を追放処分となり、フェイルノート騎士団長に対する殺人未遂罪で幽閉が決定しました」
きっと、セナトリウス議員の娘ということもあって、処刑など重い処分はギリギリで避けられたのでしょう。
それでも、もうミストレアの顔を見なくていいのなら十分。
「そうか。彼女を任命したのは俺だ。責任の追及は避けられんだろう。ならば団長の座をお前に譲ってもいい」
「なにをおっしゃるのですか、フェイルノート騎士団長。あなたでなければ騎士団を導けない。クリス様もそう思うでしょう?」
その通りだと、わたくしもうなずく。
彼でなければ騎士団は崩壊し、皇帝陛下は気を変えてしまうだろう。別の騎士団が選ばれてしまうかもしれない。
「しかし……」
「大丈夫です。セナトリウス議員は今回の件でかなり頭を痛めているようで、発言権自体も弱まっている様子です」
そういえば、ここ最近は呼び出しもない。
ミストレアのことも追及されていないし、平和そのもの。
「わたくしからもお願いです。フェイルノート様、どうか騎士団長を続けてください」
「クリス……。そうだな、もう少しがんばってみるよ」
不意に可愛い笑顔を向けられ、わたくしは心臓が高鳴った。あまり普段見せない日向のような笑顔。
「では、自分はこれにて」
「助かったよ、ガルフォード」
ガルフォードは深々とお辞儀をして部屋から去っていく。
静寂に包まれる部屋の中。
わたくしはフェイルノートの手を取る。
「お加減はいかがですか?」
「もう大丈夫。動けるさ」
「では、もう退院ですね」
「ああ、騎士団長としてがんばると言ってしまった以上は職務に復帰せねばね」
屈託のない笑顔。また、わたくしは心臓がドキドキした。
「あの、えっと……。あ、そういえば婚約指輪ありがとうございました。毎日が忙しくてなかなかお礼を言えなくて……」
「構わないよ。それより、こちらへ」
「……はい」
フェイルノートは、弱弱しい力でわたくしを包み込む。まだ完全に体が戻ったわけではないようだった。
少し心配はあった。
それでも、温かくて幸せだった。




