突然の婚約
ルドラから話……いったい、なんだろう。
妹に盗み聞きされても嫌なので、お父様の書斎を借りることにした。
一階の奥にある部屋へ。
扉を開け、施錠もした。
「あの、ルドラ様。誤解なきよう……」
「ああ、カギのことなら気にしていないですよ。私としてもマイナに話を聞かれるのは困るので」
理解を示してくれるルドラ。よかった。
ちょうど椅子が二つあるので、腰かけた。
そして、自然と趣味のことを話し合った。
わたくしは最近、読書に没頭していることを打ち明けた。すると、ルドラも同様の哲学書を読んでいたことに驚いた。趣味が一致して嬉しい。
「そうなのですね、ルドラ様も難しい本をお読みで」
「いやいや、クリスもなかなかだよ。……ところで話は変わるけど、私とキミは子供のころに会っているだよね。覚えているかな?」
「そう、でしたか……?」
記憶が曖昧だ。
でも、掘り起こしてみた。
…………ウーン。微かに名前の知らない男の子と遊んだ記憶があるような。もしかして、この方がルドラなの?
思い出せない。
それでも、彼がローウェルの凶器から助けてくれた事実はあるし、正直、好意があった。
「その、クリス。もしよければ婚約を考えてほしい」
「え……!」
突然の婚約にわたくしは驚いた。ルドラがこんなに積極的なんて。でも、悪くない。彼のような騎士なら、わたくしは――。
突然のことに胸の動悸が治まらない。もちろん、良い意味で。
正直、ローウェルを失ってから寂しさを覚えていた。
妹は地味な嫌がらせをしてくるし、ルドラがついてくれるのなら、わたくしとしても嬉しい。
きっと守ってくれる、そんな気がした。
海のように川のように落ち着いた視線を送ってくるルドラ。
「どうかな」
「……光栄です。あとはお父様のお許しがあれば」
「分かった。私からも話してみるつもりだ」
きっとお父様も理解してくれる。
ローウェルのことでは、大変憤慨していたと聞く。
それは恐ろしい形相で騎士団長を問い詰めていたとか。
話がまとまった中で、扉をノックする音が響く。
開けてみると、そこには執事のバルザックの姿が。手元にはティーセットが。
「お嬢様、お紅茶でございます」
「ありがとう、バルザック」
「ところで、マイナ様ですが……」
「マイナがどうかしたの?」
「ええ……実は」
バルザックは言いにくそうにして、けれど、恐ろしいことを口にした。
……マイナ、わたくしとルドラの仲を引き裂こうとする気……!?