辺境騎士からの婚約破棄 Side:ミストレア
◆Side:ミストレア
「ミストレア。君とは婚約破棄するよ」
辺境の騎士ベンジャミン・トリニティは背を向けた。
あまりに突然のことに、私は頭が真っ白になった。
一年も付き合っていたのに、なぜこんなアッサリ……。
彼は、辺境伯令嬢クリス・ミステルを我が物にする為にルドラ副団長に挑むと言って出て行ってしまった。
そんな……私と婚約するって言ってくれたじゃない!
毎日毎日、同じ時間を過ごして笑いあっていたのに。
こんな簡単に捨てるなんて……ベンジャミン、なんて男性なの!
鬱になった私は、食事も喉が通らない日々が続いた。
そして、ある日。
騎士団長のフェイルノートが現れ、私を副団長代理に指定した。きっと、こんなズタボロだった私を気遣ってのことだろう。
他の騎士と比べれば剣の腕は、多少突出したものがあると自負している。だから嬉しかった。
元気を取り戻した私は、次第にフェイルノートに惹かれるようになった。彼はずっと仮面をして素顔を晒してくれなかった。
でも、きっとあの人は副団長のルドラ。
そんな気がしていた。
そうしてある日、ベンジャミンが決闘に敗北したと聞いた。その瞬間、いい気味だと思った。
彼は再び、私の前に現れ「やりなおそう」と言った。ふざけるなと思った。
「もう私には好きな人がいるんです。目の前から消えて!」
「……そうか」
ベンジャミンは潔く去っていった。
これでフェイルノートと新しい人生を――。
――ダメだ。
あの女が、
クリス・ミステルが、
フェイルノートのそばにいて……。
常に隣にいて……手が届かない。
なんなのあの女!!
自宅で頭を抱え、叫んでいるとお父様が現れた。
「聞いたぞ、ミストレア。お前、ベンジャミンと別れたそうだな」
さすが父。議員だけあって情報が早い。
セナトリウス議員の名で有名な父。私はそんな父、侯爵の娘。
平凡な人生を避けるため、自ら騎士となり危険な戦地へ赴く。それでも、結婚はしておきたいと……当たり前の幸せを願ってはいた。
でも。
「そうです、お父様。でも、騎士団長を好きになりました」
「ふむ。フェイルノートか」
「はい。彼となら幸せになれると思います」
「だが、ヤツは辺境伯令嬢のクリスに気があるようだぞ」
「……やっぱりそうなのですね」
「まあいい。娘の幸せの為だ。この私が動いてやろう」
「本当ですか!」
「任せるがいい。お前はクリスと決闘して勝利を掴めばいいのだ。もちろん、こちらもサポートする」
「ありがとうございます。お父様」
父は、昔から私に甘かった。だから議員という立場を利用して、今までいろいろしてくれた。今回も助けてくれそうだ。
クリス、貴女は私には勝てない。
剣技もそうだけど、父の権力もあるのだから。
勝つのは私。
私こそがフェイルノートに相応しいの。
……さあ、はじめましょう。決闘を。




