嫌味には屈しない
爪を治して貰い、しかもネイルまでつけてもらった。
これなら剣を握っても平気だとシリウスは断言してくれた。……良かった。
外へ出て馬車へ戻ろうとした時だった。
「……おや、クリスではありませんか」
偶然にもミストレアが通りかかった。まさか、こんなところで出会うなんて。
しかも今日も騎士の格好をしていた。
腰には剣を携えているところを見ると任務中ってところでしょう。
「……」
「そう睨まないでください。あ、フェイルノート様。お疲れ様です!」
愛想笑いを振りまくミストレアは、テンション高くフェイルノートに近づく。もちろん、阻止した。
「今、わたくしとフェイルノート様は二人きりで気分転換中なのです」
「そんなに余裕ぶっていて大丈夫なのですか~?」
「その言葉、そっくりそのままお返しします」
「そんなオシャレなつけ爪しても意味はないと思いますけどね……!」
なんて嫌味なの!
フェイルノートと一緒に選んでもらって気に入っているのに。
それを意味ないとか、なんてこと言うの。
――いえ、冷静になるよ、わたくし。
こんな女の戯言に付き合っているヒマはないの。
「意味を見出すのは己自身です」
それだけ言い残し、わたくしはフェイルノートの手を取った。この場を早急に去らねば、ミストレアを叩いてしまいそうだから。
けれど、それでもミストレアはしつこかった。
「ここで決闘をしてもいいのですよ……クリス!」
「約束の日はまだですよ。騎士としてのプライドはないのですか?」
「くっ。言ってくれるじゃない! まあいいわ、精々がんばることね! その首洗って待っていなさい」
踵を返すミストレアは、最後まで嫌味を言って去っていく。あれが彼女なのね。
やれやれ、疲れたわ。
「大丈夫かい、クリス」
「平気です。あの方も必死なのでしょう」
「すまないね。本当は庇ってやりたいのだが、でも君の味方さ」
フェイルノートは、ガウェイン騎士団の騎士団長としての立場がある。ミストレアは、あんなのでも副団長代理。ここで不公平が生じるといろいろ面倒になるということでしょう。わたくしは、理解した。
「ありがとうございます。ネイルを選んでくれただけでも感謝です」
「ああ、それとこんな街中ですまないが――」
フェイルノートは、その場で膝をついてわたくしの腕にブレスレットをはめた。こ、これは……以前、わたくしが返礼したもの。
ルチルクォーツのブレスレット。
「よろしいのですか?」
「今度は君の番だからね。クリス、君の勝利を願っている」
「……嬉しいです、フェイルノート様」
絶対に勝つ。あのミストレアに。
そして、今度こそ婚約を。




