わたくしを舐めすぎた結果
「クリス……敗北を認めなさい」
不敵に笑うヴァレリアは、警戒するようにわたくしの周囲をゆっくりと歩く。
油断をすれば刺されるかもしれない。
それとも、酸を掛けてくるかも。
一応、バルザックがいるとはいえ……一定の距離を保たないと危険ね。
「認めてどうなるというの?」
「ルドラとの関係を終わらせて辺境の地で静かに暮らしなさい。そうすれば、命だけは助けてあげるわ」
意味の分からないことを。
同意する意味もなければ、なんのメリットもなかった。
「拒否するわ。ヴァレリア、あなたは頭がおかしいようね」
「ええ、そうでなければ敵国の王子と結婚なんてしないかもね」
と、ヴァレリアは認めた。
なんて女なの……。
「そもそも、それは売国ではなくて? 処刑されてもおかしくないわ」
「ええ、だから滞在もあと一日が限度でしょうね」
そうか、決着をつけるためにわざわざやって来たのか。恐らく、ルドラや騎士団に捕らえられることも計算済みで――逃走ルートを考えてあるってところかも。
わたくしを陥れた後に王国へ帰ろうということね。
逃がさないわ。
もっと時間を稼がないと……!
「そう。ヴァレリア、ひとつ聞かせて」
「いいでしょう。時間があまりないけれど、ひとつくらいなら聞いてあげる。冥途の土産にね……!」
ニヤリと自信満々にするヴァレリア。そんなに余裕があるだなんて……よっぽど緻密に計画を練ってきたようね。
「あなた、フェイルノートが好きだったの?」
「ええ、もちろん。子供の頃から好きだった。彼を最初に狙ったのは私だった。でも、クリスあなたが現れ……彼をかすめ取った。だから許せなかったの……!」
その場で立ち止まり、ヴァレリアは憎悪をわたくしに向ける。
「だからって殺そうとするのはおかしいでしょう! 記憶を消したり、酷いわ!」
「おかしくなんてないわ。私の愛は本物だもの!」
近づいてくるヴァレリア。その間にバルザックが守るように入った。
「お嬢様。私の後ろに」
「ありがとう、バルザック」
けれど、ヴァレリアはスカートの中からナイフを取り出していた。そんなところに!
「執事、邪魔をしない方がいいわ」
「そうはいきません。ヴァレリア様、どうかお引き取りを」
「残念だけどクリスを抹殺しないといけないのよ」
ナイフを持ち、向かってくるヴァレリアはバルザックに襲い掛かった。そして刃を彼の肩に。
「……ぐっ」
「バルザック!」
「お嬢様……逃げてくださ……」
なんてことを。
この女、わたくしの大切な人を次々に。
許せない。
「ヴァレリア!」
「へえ、素手で来る気!? クリス、あんたみたいなか弱い女では何もできないわ!!」
こんなこともあろうかと、広間には『レイピア』があった。壁に飾られている剣を取り、ヴァレリアに向けた。
「覚悟!!」
「なッ! レイピアだなんて!!」
驚くヴァレリア。ナイフとレイピアでは、圧倒的なリーチの差があった。当然、レイピアの方が長くて鋭い。しかもスピードに優れている。
普段、ルドラの決闘を目の当たりにしていたから、動きを模倣できた。それに、フェンシングを齧っていたから。
おかげでヴァレリアのナイフを弾き飛ばし、そして右肩と左肩に刺していく。
「てやっ!」
「ぎゃあ!? いやぁあぁッ!?」
更に気合で突き入れると、ヴァレリアの頬をかすめた。
そのまま剣を首元へ。
ヴァレリアはその場にヘナヘナと崩れていた。
「わたくしを舐めすぎた結果ですよ、ヴァレリア」
「そ、そんな……」




