直接対決
ある日、我が家に脅迫文が届いた。
『クリスへ。ルドラと別れ孤独に暮らしなさい。さもなくば命の保証はない』
と、短文で書かれていた。
明らかにヴァレリアだ。
ついにこんな手紙まで送ってくるなんて……。
もちろん、このことはバルザックとルドラにも共有した。
バルザックは引き続き、ヴァレリアの動向を監視すると出かけた。
ルドラはこのことを重く見て、わたくしと常に一緒にいるようになった。
「君の事は私が守る」
「ありがとうございます。ルドラ様」
「とはいえ、ヴァレリアの居場所はもう分かっている。あとは『証拠』を固めるだけ。バルザックが向こうの調査を行っている」
「彼の力なら証拠を捉え、具現化できる」
「はい。バルザックの能力ならきっと……」
しかし、リスクも高い。
仮にもヴァレリアは敵国の王妃。
捕えたり、裁判にかければ問題となり……今度は大戦争に発展するかも。
そのことはルドラも懸念を抱いているようだけれど、副団長代理が王国に潜入調査を行っているという。
ヴァレリアが本当に王妃なのかどうか。
だから、わたくし達はまだ動けないし、じっと待つしかなかった。
外に出られないなんて……。
一歩でも出ようものなら暗殺される恐れがある。
向こうはそれほどに必死なはず。
今は我慢の時ね……。
脅迫の手紙が届いて更に三日後。
いつものように自分の邸宅でゆっくりしていると、バルザックが慌てて現れた。
「お、お嬢様……大変でございます」
「どうしたの?」
「そ、その。大変申し上げにくいのですが、ヴァレリア様が来られました」
「……!」
バルザックの報告を聞き、わたくしは背筋が凍った。まさか敵がわざわざ乗り込んでくるとは想定外だった。しかも堂々と正面から。
「止めたのですが、強引に……」
「そう。直接対決ってことね」
てっきり回りくどく嫌がらせしてくるもとのばかり思っていた。けれど、ヴァレリアはそうではなかった。あの深い森の時と同じように大胆。
ということは勝算があってのこと。
危険しか感じないので退避してもよかった。
でも、逃げるわけにもいかない。
それに、ヴァレリアと直接話してみたかった。
なぜ、こんなことをするのか問い詰めたい。
「如何いたしましょうか?」
「通してちょうだい。わたくしが鉄槌を下します」
妹の仇を――半分くらいはその理由。残りは、わたくしとルドラの為。
このまま立ち止まっても意味はない。
ならば戦うまで。
いつもルドラに守られてばかり。
だから、ここはわたくし自らが出る。
そんな間にもヴァレリアがズカズカと広間に入ってきた。
「……」
氷のように冷たいまなざし。青い瞳をこちらに向けてくる。
さすがに成長して容姿が変化しているけれど、あの見下すような表情は忘れもしない。
「ヴァレリアね」
「そうよ、クリス。昔のことは思い出したかしら?」
くすくすと笑うヴァレリアは、わたくしの記憶を消したことを微塵も後悔していなさそうだった。そんなあざ笑うように近づいてくる光景に、わたくしは不快感を覚えた。
「それ以上近づかないで。それより、よくも妹を!」
「証拠がないわ」
「……くっ」
証拠は今、ルドラが固めているところだった。今日中には確かな情報を得られると言っていた。それまで時間を稼ぐ。
それが、わたくしに出来ることだから……!




