本物の騎士団長となった日
「クリス様を幸せにするのは……この僕だ!」
一人の騎士がルドラに向かっていく。
けれど、光の槍を作り出すルドラは相手を子供のように裁く。騎士の体が紙のように吹き飛び、遠くへ。
す、凄い……!
他の騎士も動揺していた。けれど、一人では無理だと悟って今度は十人程度が襲い掛かってきた。なんて卑怯なの……!
「この戦いに騎士道精神など不要!」「そうだ、偽騎士団長を倒せばいいのだ!」「覚悟しろ、偽フェイルノート!」「クリス様を助けるのだ!」「この人数なら勝てるだろ!」
一斉に向かってくる騎士たち。
そこまでして勝ちたいなんて……。
いえ、彼らのせいではない。
元をたどればヴァレリアのせい。
この人たちは、ある意味では操られているだけ。
「や、やめてください!」
わたくしは精一杯叫ぶものの、その声は届かなかった。
男性騎士たちの声の方が圧倒的で、もう止められる勢いではなかった。
「覚悟ォ!」「この場で散れ、偽フェイルノート!」「消え去れ、偽者!」「ガウェイン騎士団に栄光あれっ!」「うぉぉぉおっ!」
複数人の騎士がルドラに襲い掛かる。けれど、ルドラは冷静に立ち尽くし光の槍を向けた。
その光景がまるで“深い森”で見た凛々しい表情によく似ていた。フェイルノートそのもののような。
ああ、そうだ。今はだけは本物のフェイルノートだ。
彼は光の槍を騎士たちに向け放った。
光は一瞬で到達し、彼らを吹き飛ばしていた。
「うあああああ!」「な、なんだこれは!!」「こ……この光、まさしく“本物”ではないか」「誰だ、偽者とか言ったやつ!」「彼はフェイルノートじゃないか!」「くそおおおおお……!」
十人以上が遠くへ投げ出され、倒れていた。
あんな人数でもアッサリと。
やっぱりルドラは凄い……!
「ルドラ様!」
「君のおかげさ、クリス」
「いえ、わたくしは何も……」
「そばにいてくれるだけで力が湧き出るんだ」
「まあ、嬉しいっ」
残りの騎士は、この光景を見て一歩どころか十歩は下がっていた。完全に怯えていた。ルドラが本物のフェイルノートだと確信して。
そして、ついには逃げ出した。
「……やれやれ、行ったか」
「お疲れ様です。ルドラ様」
「ありがとう、クリス」
この『1対30』の大決闘はすぐに話題になり、ウワサになった。
彼が本物のフェイルノートであることが決定的となり、ヴァレリアの嫌がらせは阻止された。
バルザックによれば、ヴァレリアは悔しがっていたという。
今後また何かされるかもしれない。
でも、わたくしもルドラを守るし。
ルドラもわたくしを守ってくれる。
力を合わせればヴァレリアなんて怖くない。




