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さようなら、騎士の妹

 むすっとした表情で騎士団長室に入ってくる貴族女性。

 誰でしたっけ……。


「えっと……」


 身に憶えないと立ち尽くしていると、ルドラはいつの間にか仮面をつけていて、わたくしの前に立った。


「キミはまさか」

「そうですよ、フェイルノート騎士団長。私はリゼリアです」


 リゼリア?

 聞いたことがない名前ね。こんな青髪の女性はご存じなかった。ということは身分の低い貴族なのでしょう。



「それで、私に何かようかね?」

「フェイルノート騎士団長、そのクリスは怪物ですわよ」


「どういうことかな」


「兄のローウェルを大監獄バーバヤーガへ送った張本人! 最低最悪の極悪令嬢ですの!」



 ……!


 このリゼリアと名乗る女性貴族、まさかのローウェルの妹!


 そういうことだったのね。


 だから、わたくしを目の敵に。



「リゼリア、といいましたね」

「なによ、クリス。兄さんをヒドイ目に遭わせておいて……!」


「誤解です。彼がわたくしを捨てたのですよ」

「違うわ! あんたが兄さんを捨てたの。どうして助けてあげなかったの!」



 憎むような目線を向けるリゼリア。完全に誤解している。でも、正直和解できる気もしなかった。彼女はきっとローウェルの味方。わたくしの言葉届かない。

 それを察したルドラは(かば)うようにしてくれた。



「クリスは関係ない。リゼリア、悪いんだが部屋から出て行ってもらおう」

「そうはいきません」


 またわたくしを(にら)むリゼリアは、(そで)の中から小瓶(こびん)を取り出していた。なにかの液体が入っているような。


 (ふた)開け、その瓶をわたくし目掛けて投げてきた。



「…………え」


「クリス! これは『酸』よ! あんたのそのムカツクほど可愛い顔をメチャクチャにしてやるわッッ!」



 高らかに笑うリゼリアは、そんなこと悪魔的に叫んだ。


 さ、酸ですって? そんなものを浴びたら皮膚が大ヤケド負い、表に出られないほどになってしまう。



「……イヤ!」



 酸の瓶が目の前に落ちてくる寸前で、ルドラが素早く動き『光の盾』を生成した。……こ、これは! あの決闘の時の!



 液体の入った瓶は『光の盾』に弾かれ、今度はリゼリアの方へ落ちていく。


 リゼリアも予想外だったのか、避ける暇もなく瓶の中身を浴びてしまっていた。



「…………え。きゃあああああああああああ!!!」



 じゅわっと皮膚の焼けるような音がした。リゼリアはその場に崩れ、泣き叫んで助けを呼んだ。



「リゼリア、お前は私の大切な人を傷つけようとした。だから自業自得だ」



 しかし、このまま放置するわけにもいかなかった。ルドラは、医者を呼びリゼリアを運ばせた。手当をするみたいだけど医者いよれば傷跡は消えないだろうとのことだった。


 危なかった。もしかしたら、わたくしが一生の傷を負うことになっていたかもしれなかったのだから……。



 * * * * *



【ミステル邸・庭】


 リゼリアは、ガウェイン騎士団に『酸』を秘密裏に持ち込み、わたくし(クリス)に危害を加えた罪で捕まった。

 ――とはいえ、彼女はしばらく治療に専念するらしい。

 傷があまりにヒドイのだとか。


 可哀想に。

 でも、ルドラが言っていたように自業自得。

 そんな危険なものを選んだばかりに、自身が大怪我を負うことになった。


 せめて、わたくしの妹のマイナのように料理対決だったら、まだ少しはマシだったかもしれないけれど。



 そういえば、婚約指輪を受け取り損ねた。


 今回の事件があまりに大事になってしまったからだ。



 お父様はカンカンで、しばらく騎士団へ呼ばれても行くなと口酸っぱく言われてしまった。

 そのせいでフェイルノート扮するルドラは、説明に追われて大変だった。でも、わたくしもお父様を説得した。



「ありがとう、クリス。おかげで辺境伯は気分を落ち着かせてくれた」

「よかったです。お父様、事件のことを耳にした瞬間に顔を真っ赤にして激怒していましたから……」



 アレは完全に頭に血が上っていた。下手をすれば騎士団そのものが消滅したかもしれない。最低でも支援打ち切りはありえたかも。


 そうなれば、ガウェイン騎士団の存続は危うくなり……他の騎士団が台頭することに。もしそんなことになれば、ルドラの権威は地の底に。

 フェイルノートの想いも無駄になってしまう。

 わたくしも、それは望まないことだった。


 だから必死にお父様を説得した。



「ごめんなさい。もとはといえば大叔母様のせいなのに」

「いいんだ。クリスと一緒に切り抜けられているからね」



 微笑むルドラは、本当に嬉しそうにしていた。わたくしも、その表情が見られて安心した。……良かった。

 ここ最近のルドラは落ち込んでいたし、元気がなかったから。



「大叔母様をなんとかしなければですね」

「そうしてもらえると助かるかな」



 決闘もこれ以上は望まないとルドラは、珍しくため息を吐く。そうよね、ずっと戦い続けてきた。

 十分すぎるほどに。


 だから、以降はわたくしは全力で止める。

 そうしないとルドラが倒れてしまうから。



「この後はどうしますか?」

「決闘も避けたいし、一緒に遠出しよう。見せたいものもあるんだ」

「まあ、嬉しい。では参りましょう」



 外にはバルザックの用意してくれた馬車がある。それに乗り、どこかへ向かう。ルドラが案内してくれるという。


 楽しみ……!

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