表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/85

騎士団長の婚約指輪

 手を優しく引いてくれる騎士団長フェイルノート。

 この温もりは何度も感じたことがある。


 それに共通点も多く存在する。黒髪や背の高さも同じ。彼はきっとルドラ。


 二階にある騎士団長室へ案内された。

 そこには誰もいなくて、書物の並ぶ棚があって――ただ静かな時間が流れていた。……なんだろう、あの絵画。なぜか伏せられていた。



「あの……」



 わたくしは声を掛けるが、彼は背を向けたまま窓辺へ。遠くを見つめて、けれど決心したかのように仮面を外した。



「…………」



 その顔に、わたくしに驚きはなかった。やっぱり、ルドラだったから。



「ルドラ様、ですよね。どうして。遠征は?」

「クリス、騙すようなことをしてすまない」


「やっぱり、ルドラ様なのですね」


「ああ。私は騎士団長フェイルノートと副団長ルドラの両方の顔を持つ」



 両方の顔……?

 どうして、わざわざ騎士団長と副団長の二人を演じなければならないのか、今のわたくしには分からなかった。



「なぜそんなことを?」

「今、副団長代理は遠征している。そこだけは誤解しないでくれ」

「では、遠征は本当なのですね」



 コクっとうなずくルドラは、こちらに歩み寄って「そうだ」と答えた。続けて辛そうに真実を語り始めた。



「――私はフェイルノートではない」

「え……」


「フェイルノートは、私の双子の“兄”でね。戦争で帰らぬ人となった」

「そうだったのですね……」



 ルドラは悲しそうな瞳を浮かべ、事情を話してくれた。



「ガウェイン騎士団を存続させる為、私は兄の意思を継いで騎士団長フェイルノートと副団長ルドラとして活動することにした」



 だから仮面で顔を隠し、兄を演じ続けたという。そんな大変なことをずっと演じていたのね。

 しかも、ほとんど一人で。


「お兄さんの為に必死だったんですね」

「そうだ。兄は君のことをよく語っていたよ」


「……え?」


「子供の頃の男の子さ。いつしか話してくれた幼少時代の……あれは兄フェイルノートなんだ」



 それを聞いてわたくしは思い出した。

 あぁ……そっか。


 わたくしは、てっきりルドラかと。

 でも違ったんだ。


 双子で似ていたから分からなかった。だから、ルドラとも会ったような気がしていたんだ。でも、それは違った。


 本当は騎士団長フェイルノートだったんだ。



「申し訳ないです。言葉が見つからなくて……」


「兄は貴女を心の底から愛していた。でも、私もクリス……君のこと好きになってしまった。愛してしまった。――だから、この婚約指輪を」



 懐から大切そうに取り出す指輪。

 それを見てわたくしは子供の頃の記憶が鮮明に蘇った。


 ……フェイルノート。


 ああ、そうか。なぜ忘れていたの。



「…………」



 自然と涙が零れ落ちた。……もう二度と()えないのね。




「私は兄から聞いた話をもとに、クリスに接近した。クリスを守って欲しいという遺言の為に……。許してくれ」



 わたくしの前で(ひざ)をつき、(こうべ)を垂れる。許すも何もない。わたくしは記憶もなく、今まで過ごしてきた。

 フェイルノートが亡くなっていたことはショックだった。

 でも、今までわたくしを支えてくれていたのはルドラだった。その事実は変わらない。


「いいのですよ、ルドラ様。あなたがいなければ、今のわたくしはなかったのだから」

「ありがとう。君を幸せにしてみせるよ」



 フェイルノートの婚約指輪を差し出すルドラ。


 もちろん、返事は――。




「ちょっと待ちなさいッ!!」




 …………な。



 いつの間にか扉が開いていた。そこには……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ