騎士団長フェイルノートのお誘い
たくさんの騎士に婚約を求められ、わたくしは嬉しくて眩暈がした。こんな風に求められることは初めてではないけれど、これはあまりに多すぎる。
それに、わたくしにはルドラがいるから。
「ごめんなさい」
そう一言を添えると、女性貴族たちは――。
「わぁ、最低ね!」「なによ、あれ」「カンジ悪くない?」「やっぱりクリスってお高くとまっているのね」「引くわー」
などなど嫌味が飛んでくる。けれどスルーした。どうでもいいわ。
騎士たちも落胆するかと思いきや。
「やはりそうであったか!」「クリス様の防御は鉄壁。難攻不落と聞く」「そうだな、これだけ美しいのだ……致し方あるまい」「彼女の心はルドラ様に奪われているということか……無念」「申し訳なさそうにするクリス様もいい!」
予想外の反応に、わたくしは困惑した。
えぇ……。
そんな騎士たちの納得の裏で、女性貴族たちは「キーッ!」と悔しがっていた。……だから、そんな睨まれても。
もうこの場にいない方がいい。
そう考えたわたくしは、大広間を去ろうとした。
背を向けたその先で、誰かとぶつかった。
「…………」
顔をあげると、そこには仮面の騎士が。
まるで仮面舞踏会で覆うような美しい仮面だった。素顔は分からないけど、背が高くて男性だと理解できた。
「あの、ごめんなさい」
「……いいのですよ」
……あら。
この声、どこかで。
「こ、これは……!」「フェイルノート騎士団長!」「全員道を開けよ」
と、騎士たちの表情が硬くなる。
この方が騎士団長のフェイルノート。
はじめてみた。
唯一分かるのは背が高くて、騎士団長らしい荘厳な鎧に身を包んでいること。それと黒髪で仮面をしているということ。
なんだか不思議な人だなと、わたくしは思った。
「よい。それより、クリス様。ようこそ騎士団へ来られた」
「あ、あの……はい」
「よければ、私と二人きりで話をしないか」
「え……」
その瞬間に、女性貴族たちがまた憎悪をわたくしに放つ。
「なんでよっ!」「フェイルノート様、それはないでしょう!」「クリスなんかダメですよ!」「そ、そのクリスはやめた方が……」「ちょ、ありえないわ」
そんな抗議にフェイルノートは耳を貸さず、わたくしの手を取る。
あれ、この感じ。
もしかして彼は……ルドラなの?