婚約を求めて
三日後。
決闘も落ち着いて、特に混乱も見られなくなった今日。
わたくしは、ルドラと婚約を交わす約束をしていた。
けれど、待っても彼の来る気配がなかった。
しばらくして執事のバルザックが現れ、慌てた様子でわたくしのもとに。
「お嬢様、大変です……」
「どうしたの?」
「ル、ルドラ様が緊急の遠征に出られまして……。今日は来られないと」
「え」
緊急の遠征?
もしかして、危険なモンスターが現れたとか。それとも、また戦争とか。
センチフォリア帝国は脅威を取り除くために躍起だった。過去にだけど、油断したところを狙われ領地を奪われたことがあった。
以来、帝国の警戒心は異様なまでに高くなってしまい、いくつもの騎士団を創設。
その中でもガウェイン騎士団だけはトップクラス。
お父様の支援のおかげでもあって、その存在は今やなくてはならないものとなった。
だから戦地へ赴く頻度も高かった。
かつて付き合っていたローウェルがそうだったように。
せっかくの婚約が先延ばしになってしまった。……とても残念。でも、それでも口約束は交わしている。
わたくしは、ルドラを信じている。
彼はきっと戻ってきてくれると。
今は待つしかない。
そう思ったけれど。
「その、お嬢様」
「……ん?」
「ガウェイン騎士団への出頭要請がございます」
聞きなれない言葉に、わたくしは混乱した。しゅ、出頭要請?
な、なぜ。悪いことはしていないはずなのに。
なんの覚えもなかった。
あるとしたら――ルドラとの関係くらいしか。
「行けばいいのね?」
「はい。すでに馬車の準備はできております」
「解かったわ」
わたくしが呼ばれた理由も気になるし、それに、ルドラが普段どんなところで仕事をしているのかも気になった。
一度くらいガウェイン騎士団の内部を見学しておくのも悪くない。
* * * * *
ガウェイン騎士団に到着。
はじめてくる場所に、わたくしは少し圧倒されていた。
多くの騎士がどこかを目指して歩いていた。なんだか慌ただしい。ルドラの遠征が関係しているのかな。
その光景を眺めていると男性騎士が話しかけてきた。
「ようこそ、クリス様」
「わたくしのことを?」
「はい。フェイルノート騎士団長から聞き及んでおります。ではこちらへ」
フェイルノートが?
ルドラが言うのならともかく、騎士団長が……不思議ね。
不審に感じながらも、騎士の案内を受けていく。
大広間に着くと同時に、男性騎士たちから「お美しい」や「可憐だ」など嬉しい言葉を浴びた。
悪くないけれど、他にも女性貴族がいるのね。
「あの女性たちは?」
「クリス様と同じように呼ばれたご令嬢の方たちです」
なるほど。少し見たことがある顔もいた。でも、そこまで名高い貴族ではなくて気にもならなかった。
素通りしていくと「ミステル家のクリスよ」「知ってる。ローウェルを捨てたんだって」「わぁ、怖い」「辺境伯令嬢ってなんか嫌なカンジ」「ムカつく顔してるわね」「あの無駄に整った顔、ズタズタにしてやりたいわ」「あんなひとが副団長とお付き合いを?」「どうせお金よ」などなど、ヒドイ言われようだった。
けれど、わたくしは至って冷静だった。
彼女たちがここにいる理由がなんとなく解かったからだ。
そうか、今騎士団では“お見合い”が始まっているんだ。
騎士団には若くて階級の高い青年騎士が多く所属している。顔や性格の良い男が多くいるから、そういう理想の男性を求めて来ているんだ。
もしかして、わたくしも巻き込まれた?
これはたぶん、大叔母様の企画かもしれない。
案内してくれた青年騎士は「一部の騎士たちは遠征で不在ですが、これからお見合いをはじめます」と宣言した。
やっぱり、そうだったのね。
ルドラとの婚約が済んでいない内に、大叔母様は裏で手を回してこんな強硬手段を……!
大叔母様は、どうしてもわたくしとルドラをくっ付けたくないらしい。
どうして認めて下さらないの。
でもいいわ、全員振ってやる。
そう決意を固めた矢先に、騎士たちはわたくしのもとに殺到した。
え。
ええ~~~!?
「クリス様、結婚してください!」「宝石のように輝かしい君となら理想の未来を作れる」「まだ副団長のルドラ様とは婚約していないんですよね!?」「俺にもチャンスが!」「お願いだ。この手を取ってくれ」「絶対に幸せにしてみせるッ」
こ、こんなに!
ていうか、ほとんどの男性がわたくしのところに。
そして案の定、女性貴族は憎しみを向けてきた。
そんな睨まれても……!