さようなら、妹
料理の勝負はついた。
わたくしの勝ち。
それは、ルドラもバルザックも認めていた。
ただ一人を除いて。
「……お姉さま」
「これ以上の文句は受けつけないわ。マイナ、潔く敗北を認めなさい」
「……許せない」
ぼそっとつぶやくマイナ。
なんて言ったか声が小さすぎて聞こえなかった。
「なに?」
「絶対に許せないッ! お姉さまなんて死んでしまえばいいのよ!!」
発狂するマイナは、キッチンにあった包丁を握った。それをこちらへ向けてきた。……そんなことするなんて!
「やめるんだ、マイナ!」
ルドラが静止しようとするけれど「おっと、動かないことね」と、わたくしを人質にする。なんて卑怯ななの。最低すぎる。こんなのが妹だなんて、わたくしは失望しかない。
ようやく正々堂々と戦えたと思ったのに、結局こうなるの。悲しい。実に悲しい。
「わたくしを殺すの、マイナ」
「そうよ。このまま心臓を一突きにしてあげるわッ」
迷いをひとつも見せず、マイナは包丁を振り下ろしてきた。わたくしは死を覚悟した。……こんなの避けられない。
『グシャリ』
と肉を裂くような音がして、わたくしは頭が真っ白になった。もう、ダメ……!
血が止まらない。
そう思ったけれど、わたくしに痛みはなかった。
え、なにが?
床は確かに血だまりが出来ているのに。
「……マイナ?」
「いやあああああああああ! 私の右腕があああああああ!!」
よく見るとマイナの右腕が切断されていた。
ルドラが凄まじい速度で光の槍を振り下ろしていたのだ。す、すごい。見えなかった。
「いい加減にしろ、マイナ。クリスは実の姉だろう!」
「いたい、いたい、イタイ、痛いいいいいいぃい!!」
ついにマイナは気絶して倒れた。
「マイナ……!」
「大丈夫だ、気を失っているだけ」
「しかし、腕が」
「クリス、君を守る為には仕方がなかった。とはいえ、辺境伯のご令嬢に危害を加えてしまった。どんな処罰も受ける覚悟だ」
「処罰なんてさせません。大丈夫。わたくしがルドラ様を支えますから」
「ありがとう」
その後、マイナの件はお父様の耳にも入った。けれど、お父様はルドラの肩をもった。重い処罰を下すこともなかった。
マイナは、そもそもわたくしを殺そうと包丁を手にした。その時点で罪は重いと判断したようだった。
本来なら監獄行きだと怒りを露わにしていた。
マイナ本人は大怪我もあって、辺境の地にある病院へ移された。そう、かつてローウェルの駐留していた領地だ。
もう会うことはないでしょう。
わたくしは、ルドラと幸せになりたい。だから……。