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「おはよう、ゴウくん。」


そう邦剛に爽やかな笑顔で挨拶をしてきたのは、音無祐也。


邦剛の親友の1人である。


邦剛は読もうとしていたわけではなく、単に開いていた本を閉じると、祐也へと視線を向ける。


「ん?ああ、はよ、ユウ。」


「どうしたんだい?眠そうだね。」


邦剛は寝不足だった。ぼ〜っと外を眺めるなんかしていなかったのは、太陽の光が眩しいと感じていたからである。


なぜ邦剛が寝不足なのかというと、それは言うまでもあるまい。


邦剛は祐也から視線を逸らすと流すように答えた。この話には触れるなと。


「…まあな…。」


…しかしながら、祐也はそのことにすぐには気がつかず、こんなことを口にして…。


「あれ?春宮さんは?いつもなら…。」


「っ!?……。」


…邦剛の反応でようやく気がついたらしい。


「…なにかあったみたいだね。この話には触れない方が良さそうかな?もしなにか抱えきれないことがあるなら相談に乗るから。」


「……ありがとう、ユウ。」


こんなふうに挨拶を交わすと、祐也は空気を読んで、邦剛から離れ他の男の友人たちのもとへと向かう。


「おはよう、皆。」


「「「おはよう。」」」「おはよ。」


「はよう!ユウ!なあ、昨日…。」


祐也たちはそんなふうに言葉を交わし合い始めた。


これが朝のホームルームまで続く。


これがいつもの朝の風景。



それからの一日は春宮が学園を休んだこと以外、なんとも平凡ないつも通りのそれ。


そのおかげか、邦剛の心の状態は特に悪化することなく、悪いものの安定はしていた。


さっさと家に帰って、のんびりしたい。


しばらくは放っておいてほしいと邦剛は思っていた。



しかしながら、運命というやつは今の邦剛に休憩時間というものを与えてはくれないらしい。


「邦剛くん、今日暇なら、僕と遊びにいかない?」


帰り支度をしている邦剛に声を掛けてきたのは、文字列ではわからないかもしれないが、女性だった。


その声に顔を上げた邦剛。


彼女は確か同じクラスの女子生徒だったと思う。


名前は向井まひる?たぶん?


…学年3大美少女の1人…だったか?興味ないから詳細は知らないが…。


背は女子高生の平均くらい。髪は背中に届くほどのストレート、目元はつり目がちで意志は強そうな印象を受ける。耳から入った言葉はしっかりと聞こえているらしいが、可愛いらしいという表現が似合う彼女の笑顔はどこか強張っているように邦剛は思った。



そして、放課後のざわざわとした喧騒に包まれていた教室がシーンと静まり返ったのだ。



邦剛はこれを偶然だと思っているが、実のところこれは偶然ではない。


実のところ、これは一種の度胸試しにして、宣言なのだ。



題して()()()()()



祐也は女子生徒に誘われても、ほぼ100%断る。理由はわからないが、それはもう確実に。


そして、あまりにもしつこいようだとこう言う。


【ゴウくんが一緒ならいいよ。】と…。



鬼龍院邦剛は学園中の生徒だけでなく職員…いや、学園の外でも恐れられていた。


理由は簡単。雰囲気が怖くて、背が高く、なおかつ威圧感があるから。


特にその雰囲気というのが真っ黒なオーラそのもので普通の人にはその奥に視線と思しき紅い光しか見えないらしい。普段から完全に触れるだけで祟りでももらいかねない超特級呪具…柔らかく言って、いわゆる腫れ物扱いで、例外を除けば女性なら余程の覚悟がある人物くらいしか話しかけるなどできはしない。


だからこその、()()である。


まず邦剛を誘って、それから祐也を誘う。


これほどのことができれば、その想いは本物だと認め、邪魔をしないと暗黙のルールが周りで広まっている。



さらには、これはそんな邪魔を避けるという狙い以外の利点も存在するのだ。


なんと邦剛がかつて断った相手は例外なく、浮気を日常からしていたり、碌でもないことをしたりと判定があまりにもしっかりとしていて、付け加えるならば祐也から絶大な信頼までも得ていることから、()()()()()()()()()()として、今や女子だけでなく男子までもが知ることとなっている。


正に知らぬは本人ばかりなり。



…なにせ本当のところのジャッジは邦剛の用件の有無、正に神のみぞ知るなのだから。



そんなことが裏で暗黙となっていることを知らない邦剛は単に()()を理由に、NOを突きつけようと思ったのだが、あまりにも教室内が静かだったため、それをすることを躊躇した。


…こんな…周りにもわかるふうに断るのは可哀想か?


邦剛は面倒見が良いことからもわかるように気遣い屋でもあるのだ。


だからこそ…しばらくの無言。誰かいつものように話すなり、騒ぐなりしろと。


「「…………。」」


それから一分ほど、邦剛を除き、誰も身じろぎ一つしなかった。もちろんまひるも…。おそらく彼女なんて生きた心地すらしなかったに違いないことだろう。


これではいつになっても話は終わらない。


その異様な沈黙に耐えかねた邦剛。


「……はあ……。」


喧騒が戻る様子がないことに邦剛はため息を吐くと、返事を返す。


「…で?どこ行くんだ?」


そう邦剛が口を開くと、教室中が息を吐いた。


「…え?いいの?」


「…ああ、いいよ。」


「…やった……やった!!……う〜ん、それじゃあ…あっ、音無くんも一緒にどう?えっと…。」


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