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夕暮れ時、二つの影が並んでいた。


その影は一つは男で、もう一つは女のもの。


距離感はそれなりに近く、女性の方のそれは男の手のあたりへと視線を送っている。


男の方はそんなことにはまったく気がついたような素振りを見せずに天へと祈るように顔を向ける。


「いよいよか…本当によく頑張ったな、春宮。」


「えっ?……そ、その……うん…。」


春宮は慌てて手を引っ込めると、あわあわと手を振り回し…自分の胸のあたりで右の掌で左手を包んで、俯く。


鬼龍院邦剛(くにたけ)は彼女のどこか自信なげ様子に顔を彼女に向けると、励ますように告げる。


「大丈夫。きっと上手くいく。」


優しい笑顔を向け、そっと頭の上に手を置く。すると、春宮の顔は夕日の中でもわかるほどに赤みを帯びていき…。


「…そ、そうだね…。」


思えば、初めの頃はあんなにも警戒されていたというのに、よくもまあ、こんなにも仲良くなれたものだ。これならアイツと結ばれてもやっていけるだろう…。


そんなことを邦剛は考えていた。


しかしながら、傍から見れば、邦剛の考えは明らかにそれは的外れなことに違いない。


「…い、今までありがとう、鬼くん。」


「ああ。」


邦剛がさらに幸せになれよと少しクサイセリフを口にしようとすると、春宮はそれを告げるより早く、緊張した様子で口を開いた。


「でさ…こ、これからはその…鬼くんのことをご、ゴウくんって呼んじゃダメ…かな?」


「ん?別に構わない…が……って、ん?」


…ここらへんでようやく邦剛も様子がおかしいことに気がつき始めた。


…そう、なにかがおかしいと。


「ほ、ホントにいいの!!やった!!」


喜ぶ春宮に困惑する邦剛。


そして、邦剛の合意を得た春宮の勢いは止まらない。


「じ、実はゴウくんには悪いんだけど…私、最近、他に好きな人ができて…。」


「……。」


彼女の気持ち、それにしようとしていることがわかり、気を失いそうになる邦剛。


しかし、運命や恋愛の神は彼にそれを許さない。そしてすぐ…。


「そ、その……す、好きです、ゴウくん。つ、付き合ってください!!」



「……とまあ、こんなことがさっきあった。麻妃(あさひ)。」


「……。」


邦剛の言葉に一度慌てて振り向いたものの、再び邦剛のベッドにスカートのまま寝っ転がる麻妃。


なんとも興味なさげにページを1枚捲り…そして…。


「…ふ〜ん…で?」


「で?って、告白を受けたのかってことか?」


「……ちっ。」


そして、ページをまた1枚。


返事は舌打ちとこれだけで十分だということなのだろう。まったくもって態度の悪いやつだ。


「…当然…断った。」


「っ……へぇ…なんで?」


バタバタ。


今度は漫画で面白いシーンでもあったのか、ページを次々と捲り、バタ足なんてことをしている。


…というか、スカートでそれはやめろ。完全に水色が見えてる。


スカートの中身が見えないようにと、麻妃の上半身の方にイスを滑らせ、目を合わせようと彼女の顔を覗き込む邦剛。


すると、彼女は薄手のキャミソールにミニスカートという出で立ちだからか、その大きな胸元が際どく同色のブラがそこから覗き、邦剛は慌ててそれを結局はやめて、後ろを向く。


「そ、そりゃそうだろ。だって春宮はアイツのことが…。」


「ああ、そういえば、また音無祐也(あのクソ野郎)を好きだった物好きな娘だったっけ?よいしょ。」


麻妃がどうやら起き上がったらしい。


それならば、ヘタに下着が覗いたりとセクシャルなことは一切あるまいと、安心してイスを回転させる邦剛。


…しかし、それはさらに悪化していた。


麻妃は上着の肩紐がズレて片方のブラがほぼモロに、さらにはスカートにも関わらずあぐらなんてかいており、再び下までもが丸見えになっていたことに気がついた邦剛は額に手を当てる。


「…麻妃、服を整えろって…あとあぐらはやめろ。」


「なんで〜、別にいいでしょ、アタシとゴウの仲じゃん。」


コイツは親しき仲にも礼儀ありという言葉を知らんのか。


幼馴染とはいえ、彼氏彼女でもない高校2年の男女が同じ部屋にいて、女の方の服が乱れているというのは、やはり男の方からすればたまったものではないだろう。


特殊な相手から告白をされたことなんていう割と大人よりな男女の話をしているからか、ただでさえ妙な雰囲気なのだ。そんな時に男の部屋でこんな挑発的なことするなんて少しは男心を考えろと言いたい。


「…この野郎が…。」


そんな苦々しげな様子の邦剛をニヨニヨと弄び楽しんでいる様子で見てくる麻妃。


そんな麻妃に邦剛はため息を吐くと、一旦仕切り直そうと部屋を出るために立ち上がり…。



「……ふう…。」


…麻妃の方へと手を伸ばした。


「っ!?」


すると、麻妃は思わずどこか不安そうに自分の胸元をかき抱く。


「……。」


そのことに邦剛は少しショックを受けつつ、()()()()()()()()()彼女の横に置かれた空のペットボトルを手に取った。


「……空だろ。なんか取ってくる。なにがいい?」


「えっ?……う、うん、ゴウくんにまかせる。」



邦剛が冷蔵庫の中を物色していると、ドタバタと階段を駆け下りる音がして、「〜〜っ〜〜っ!!」とよくわからないことを大声で叫んで家を出て行った。


窓を覗くと、隣の家のドアが閉まるのが見えたので、おそらく麻妃は家に帰ったのだろう。


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