頭のおかしな女子高生
猫って可愛いよね。
「ネコが可愛い?」
うん。猫は可愛いよ。
「ネコが好きなの?」
うん。
「あなた、タチなの?」
たち?
「タチなの?」
たち? ……舘ひろし?
「舘ひろしなの?」
ええっ?
「あなた、舘ひろしなの?」
……いやあ、〈舘ひろし〉というよりは〈野原ひろし〉かな? なんちゃって。
「野原ひろしなの?」
だから、どっちかっていうと……。
「足くさいの?」
ええっ?
「足くさいの?」
……うーん、ちょっとは臭うかな?
「臭わせて!」
ええっ?
「上履きぬいで臭わせて!」
えええ!? ……やだよー。
「あたしも臭いの」
はあ……。
「超臭いの」
……。
「臭わせてあげる!」
い、いや、いいよ!
「ほら、あたしの上履き、湿ってるでしょ」
ああああっ!
「黒く変色してるでしょ」
いやあああっ!
「どう? 臭かった?」
(臭いよー)
……いいや、ぜんぜん臭くないよ。
「そっかー。残念」
なんで残念なの?
「今度はあたしにも臭わせて!」
ええっ!
「自分だけ臭おうなんて卑怯よ! ほらさっさと上履きを貸しなさい!」
ああ、取らないで! 臭わないで!
「うーーーっ、くっさーーー!!」
ひ、ひどいよ……。
「でも、野原ひろしほどじゃないな。あたし意識あるし」
もう返してよ。
「みさえ?」
は?
「あなた、野原ひろしじゃないとすると、野原みさえなの?」
違うよ。さっきから何言ってるの?
「みさえはどう見てもタチだよな」
野原みさえは舘ひろしなの?
「ハハハ、じゃああなたは、舘ひろしと野原ひろしが結婚してると言うんだね」
そんなこと一言も言ってないよ。
「のはたち? たちのは?」
は?
「のはたち? たちのは?」
ちょっと、マジで意味わかんないんだけど。
「どっちなの? のはたち? たちのは?」
だから、意味が……。
「どっちなの!?」
(なんか怒ってる。もうどうでもいいや)
じゃあ、……〈のはたち〉。
「〈のはたち〉かあ。……まあ妥当かな。舘ひろしがもっと若ければ〈たちのは〉もアリなんだろうけど」
ねえ、あたしたち、いったい何の話をしてるの?
「二人ともネコっぽいから、難しいかもな」
そうだよ、猫が可愛いって話をしてたんだよ。
「どんなネコが好きなの?」
ええとね、整った美形の猫よりは、ちょっとぶさいくなブチ猫が好きだな。
「ええっ? ブッチのネコが好きなの?」
うん、ぶさかわのブチ猫ちゃんが好き。
「ブッチのネコ?」
うん。……あたし、なんか変なこと言ってるかな?
「ブッチのネコなんてこの世にいるの?」
え? だって、ブチ猫ちゃんなんてそこらじゅうにいるじゃないの。
「えええっ? だって、だって、ブッチのネコだよ。そんなの語義矛盾だよ」
何を言ってるの?
「あなた、ブッチのネコ相手に何をしようっていうの? 想像がつかない」
え、そりゃあ、やさしく撫でたり、餌をあげたり……。
「餌!」
いや、野良猫に餌付けしたりなんかしないよ。餌をあげるのはちゃんと自分で飼育してる猫だよ。
「飼育!」
え? なんでそんなに反応するの?
「ブッチのネコを飼育、そして餌……」
ねえ、なに考え込んでるの? さっきからずっと訳がわからないよ。
「餌は液体? 固体?」
はあっ? そりゃあ、お水もあげるし、固体の餌もあげるに決まってるじゃない。
「あのさ、……固体って、もしかして、茶色い?」
うん、茶色いね。
「うわああっ!」
ええっ、どうしたの? そんなにうろたえて。
「……分かった! あなたは本物の豚が飼いたいんだ!」
豚じゃないよ、ブチ猫ちゃんだよ。
「ブッチのネコなんて、豚以外にありえないじゃないか!」
だから、なんで猫が豚なの?
「あたしはあなたと友だちになれると思っていた。けど、ちょっとムリだ。あなたはハードコア過ぎる。お幸せに! さようなら!」
(おしまい)