過去から未来へその3
彼女は失敗作を研究成果として極東支部に持ち込むと、更なる研究開発が行われ生産量を増やしていった。やがて安定供給ができるようになると、瞬く間に失敗作は魔宝石と名を変えて世界中に広まった。
唯一の成功例である賢者の石は、秘匿して我が子を生成するための核として使用することにした。絵本の錬金術師が最後に人工生命体を創造したように、彼女もまた同じ道を選んだ。
こうして誕生した人工生命体を彼女は再誕する魂と名づけた。
それから何度目かの誕生日を迎える娘のために彼女はプレゼントを買いに出かけた。その道中で、世界中を巻き込んだ魔宝石を用いて魔宝石を奪い合う争いが勃発した。彼女は帰宅できなくなってしまい、やむを得ず極東支部に避難することになった。互いに互いを潰し合い続けたことで、終戦を迎える頃には、もう国は機能しておらず、大地は裂け空気は汚染され人が住める環境ではなくなっていた。
彼女は避難していた職員たちの言葉も聞かずに、リアムのもとに帰るため極東支部をあとにした。すぐに帰宅できるはずだったが、隠れ家と極東支部を遮断するように、数キロに渡って大陸が消滅していた。彼女は本来であれば、数日もあれば帰宅できる直線ルートを諦め、大陸をグルっと周る迂回ルートを選んだ。だが、彼女は娘が待つ我が家を目の前にして、はじまりの桜の木に背を預けて永久の眠りについた。
彼女は旅立つ前に一人の同僚にある頼み事をしていた。道半ばで諦めざる負えない状況になった場合に、自分の代わりに娘が自立できるように手助けして欲しいというものだった。
同僚は秀才だった、彼女が極東支部に来るまで彼以上に優秀な人材はいなかった。なぜ自分に遺言のようなものを託すのかと尋ねると、彼女は自分が認めた好敵手だからとあっけらかんと答えた。今まで敵対視していた彼は、その言葉を聞いたことでやっと自分の心情を理解し認めた。
それから時は経ち、彼女が亡くなったことを知った彼は遺言に従い行動を開始した。彼女の娘が人工生命体だと教えられていた彼は、自分もそれに見合った機械生命体を作製することにした。彼の専攻は機械工学であり、既存の技術を改良することに長けていた。ただそれでも自分が思い描いた理想の機械生命体を完成させるまでに生涯を費やした。
彼は天才と呼ばれた彼女と同等以上のマッドサイエンティストでもあった。追いかけても追いかけても到達できず隣に立つことすら許されない好敵手。その生前の姿、思考、姿勢といったもの全てを思い出せる限り詰め込んだ。
そして完成した機械生命体を彼は理想像と命名した。
それからイデアはリアムと出会った際に、完璧なサポートできるようにするため行商人として、世界中を見てまわることにした。唯一の生存者の製作者も亡くなり、保管庫に積まれた物資を消費する人間は誰もいなくなったこともあって、売るものは正に腐るほどあった。世界情勢や情報を知る上でも行商人は最良の選択だった。
顔を隠していたのは自分が探している人物と同じ顔だと知れば、混乱することが目に見えていたからだ。そのためリアムが心身ともに成長するまでの間、ガスマスクを外さずに接することにした。
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