過去から未来へその2
それらも身につけて旅支度を済ませると、リアムはおもちに最終衣装チェックをしてもらうために、その場で数回クルクルと回転した。おもちのほうに視線を向けてみると、彼は前足で起用にサムズアップを披露して、この衣装で問題ないと合格サインを出していた。
「おっし、準備万端! なぁおもちまだ出発はせんけどさ、万年桜に挨拶しとかん?」
「チュウ」
「分かった。おもちはそこにおって、ちょっとだけ行ってくるわ」
リアムは万年桜を見るためにローファーを履くと、数週間ぶりに家を出た。
ここに帰ってきた時に一度見た光景のはずなのに、なぜかとても色鮮やかに見えた。廃村に生い茂る草木、それらを包み込むように満開の桜が聳え立っていた。
どんな環境下にさらされようが天変地異が起ころうが戦火に巻き込まれようが、この桜の木だけは枯れることも桜花が散ることもなかった。常しえに咲き乱れていたことで、今は亡き廃村の住民が崇敬し、いつしかこの桜の木は万年桜とそう呼ばれるようになった。
リアムの髪色もこの淡い桜花からきているし、そもそも万年桜がこの場所に生えていなければ、お母さんはここに隠れ家を作ることも、リアムを創造することもなかった。そういう意味でも、リアムのもう一人のお母さんとも呼べる存在だった。
ただ万年桜が存在しなければ、発見されなければ、大戦も起こらず文明も崩壊しなかった。そして……世界が荒廃することもなかった。
リアムは万年桜の前で腰を下ろしポツリと呟いた。
「留守番もやけど、今までずっと見守ってくれてたんやね。あとな、お母さんを看取ってくれて、リアムはそれができひんかったから――本当にありがとうな」
リアムはあの日の出来事を、イデアが語った噓のような真実の夢物語を思い返してた。
あるところに神童と呼ばれる少女がいた、その少女は成長し大人になっても天才科学者として名を馳せていた。彼女は極東支部の上級職員として、将来枯渇するであろう石油などに代わる、次世代のエネルギーを研究していた。だが、一向に成功する目途が見えず途方に暮れていた。そんなある時、彼女は同僚から冗談交じりにある絵本を内容を聞かされる。
その絵本は賢者の石と呼ばれる無限に使用できるエネルギー結晶体を創り出した錬金術師の一生を描いていた。研究に行き詰りこのまま時間を潰すぐらいならと、彼女はおとぎ話に残りの人生をかけてみることにした。その賢者の石を創るため絵本に描かれていた枯れない花を探す旅に出た。存在しないと思っていたそれは神の思し召し、悪戯により僅か一週間という短期間で探し出した。それこそが万年桜であり、散ることのない桜花であった。
彼女は桜花を手に入れようと、あれこれ試行錯誤したが枝から離れることもなかった。そんな日々が続いていたある日、いつものように挑戦するため万年桜に向かうと、彼女を来るのを待っていたかのように目の前で、ひとひらの桜花がはらりと彼女の広げた手のひらに舞い落ちた。
その神懸った出来事を機に彼女は破竹の勢いで、研究を進め僅か一週間で賢者の石を完成させた。余った素材を使って、二個目の賢者の石を創り出そうと試みたが全て失敗に終わった。その失敗作こそが、のちに次世代エネルギーとしての地位を得ることになる魔宝石であり、世界大戦を引き起こした元凶。
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