はじめての坑道探索その1
ウィルと集落で別れてから二日後、リアムは鉱山跡地の入り口前にいた。死の山脈の一部であり、登山せずとも通過することができる唯一のルート。ウィルが言っていた通り鉱山の正面ゲートは、掘削機で粗雑に掘った穴に合わせて、ただ取り付けただけの簡易的なものだった。
リアムはそんな粗悪なゲートを一目見た瞬間に、これは絶対に殴ってはいけないものだと直感で理解した。ただそのことよりも彼女が気になり目を引いたものがあった。
首を痛めるほど空を見上げても山頂が見えない翠巒。外から眺めるだけであれば、死の山脈ではなく生の山脈と呼ぶべきかもしれない。そう思わせてしまうほど、死の山脈という名に反して、緑あふれる綺麗な山々が広がっていた。
一度足を踏み入れたら二度と生きては出られない場所、第三の禁足地として山岳地帯や亡骸樹林に名を連ねてもいいように思えるが、そうしてしまうと彼らには不都合なことがあった。一度でも死の山脈を禁足地として認めてしまうと、鉱山跡地も含まれてしまい今後は通過することができなくなる。 そんなことを危惧した人間が過去にいたのだろう。彼らは悪知恵を働かせてある解決策を見出した。禁足地のように危険な場所ではあるが、似て非なる場所だという白黒つけない濁色な答え。
リアムはベルトポーチからIDカードを取り出すと、正面ゲート横に設置された認証機にそのカードを通した。ピィーと甲高い機械音が十秒ほど鳴り続けたあと、今度はゴゴゴと鈍い音を響かせながら重厚なゲートが開いた。認証機はあの兵器区域にあった液晶パネル型ではなかった。ウィルからそのことを前もって教えてもらっていなければ、ゲートの開け方が分からず右往左往していたかもしれない。ただ今回は頭脳担当が起床しているので、いざとなれば知恵を借りることができる。なので、リアムが扱い方を覚えていなくても、今日に限っては何とかなる。
鉱山跡地は長期間、使用されていなかったらしく、蓄積した大量のホコリがゲートを開けたことで、風に乗って空へ舞いあがった。ウィルが言っていたことは本当だった、行商人や発掘者といった世界各地を移動する彼らでさえも、この鉱山跡地だけは通ろうとしない。まだ使えるのに使おうとしない、ここを突っ切ることができれば場所によっては、一か月以上も早くたどり着ける。それでも彼らは違う道を遠回りのルートを必ず選択する。崩落した地下鉄を臆さずに進んだウィルでさえも、一度も足を踏み込んだことがない危険な場所。
「くしゅん――ホコリっぽい」
「チュウ……」
「おもちはええよな、そうやってリアムのポケットに潜り込めば済むんやから」
「チュー?」
「マスクはなぁ~、あれ鼻こそばなるから嫌やねん」
リアムは安全地帯に避難したおもちに小言を言いながらゲートを通り抜けた。坑道内は一定間隔に配置された照明によって、視界を確保することができた。ボタンを押したりレバーを引いたりはしなかった、ただゲートから三メートル進んだところで勝手に各照明が一斉に起動した。
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