はじめての救出その3
「まず……一つ目の質問について答えるよ。ここから北に五百メートルほど行った場所に巨大な空洞があって、その先に地下鉄の入口があるんだ。で、二つ目の質問なんだけど……これは僕が原因といいますか、警報を停止させるために、そこの制御盤とかをちょっといじったんだ。無事成功はしたんだけど、罠が用意されていて……侵入者が逃走できないように封鎖されちゃってさ。まさに旧時代の産物というか、さっきまであったはずの扉が壁と一体化して目の前で消失したんだ。で、最後の質問なんだけど……君に、君って呼ばれるの嫌なんだっけ? えっと、リアムにそのことを聞かれるまで、気づきもしなかったよ。少しでも生きながらえようとして、無意識にそうしていたんじゃないかな?」
リアムは最後の回答だけよく意味が分からなかったが、とりあえず理解したという意思表示を込めて「分かった」と返事をすると、今度はウィルのほうから同じように三つ質問を投げかけられた。
「僕からも三つほど、質問とかしたいんだけど……いいかな?」
ウィルの声量はリアムの問いに対して答えていた時よりも幾分高くなっていた。こちらが止めるまで話をやめないところや、急に火が付いたかのように熱く語り始めるところが、とある行商人を彷彿とさせる。どうやらウィルはイデアと同種のタイプのようだ。先の長話といい何となく感づいてはいたが、いざその事実を知ってしまうと、ウィルの相手をするのが非常に億劫になってきた。
お母さんに関する情報を何一つ手に入れられなかったことも重なり、リアムは今すぐにでもここから立ち去りたいと思い始めていた。だからといって、ここでウィルの質問にも答えず見放すのはまた違う気がする。非常に面倒ではあるが、いまはこの場に留まることにしよう。
リアムは未練がましく、穴の空いた天井を眺めながら「――なに?」と彼に質問する許可を出した。
「あっ、えっと……それじゃ早速質問なんだけど、この建物が何なのか教えてほしい。何度となく下見には来ているけど、正面扉を開けることができなくてさ、扉越しからでしか中を見たことがないんだ。だから、リアムが知っていることを少しでもいいから教えてもらえると助かる。次の質問はリアムはどういう手段を使って、この建物に侵入したのかを教えてほしい。地下鉄から侵入する方法ぐらいしか僕は思いつかなかったからさ。それで最後の質問はこの分厚い天井に穴を空けた機械ってどこで手に入れた? あんな強力な機械が手に入れば、仕事も捗りそうだしさ、是非とも僕も手に入れたいんだ」
リアムは天井からウィルに視線を移した。彼の饒舌な喋りが急に止まったため、問いに答えていいのか様子を見るためだった。目をキラキラと輝かせながら、こちらを凝視している姿を見た瞬間にもう大丈夫なのだと、珍しく彼女はすぐに理解した。あの好奇心旺盛な彼の姿が過去の自分と重なって見えたからなのかもしれない。
リアムは言葉足らずながらもウィルの問いに答えていった。この建物が魔宝石兵器開発局であり、自分たちがいま地下四階にいること、ガラス扉を砕いて中に侵入したこと、天井も同様の手段を使って穴を空けたこと。
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