はじめての工場見学その5
おもちが起きていれば何か知恵を授けてくれるかもしれないが、一度眠りに入ると自分で起きようとしない限り、爆音を鳴らそうが激臭を嗅がせようが衝撃を与えようが、ありとあらゆることをしても目覚めない。何度か自分ひとりで考えて行動しなければならない、こういう状況に陥ったことがある。その度に彼女は悪態をつきながら解決していった。
二人の解決方法には剛と柔のように相反する。おもちが策を巡らせて解決する頭脳派とすれば、リアムは力でねじ伏せ解決する脳筋派。ただ例外も存在しないわけでもない、過去に訪れた集落で起きた出来事のような彼女に害が及びそうになった場合は、即解決できる手段を選ぶ。そういった点においては、この兄妹はよく似ているともいえる。
「階段でもエレベーターでも行けない。音的にはこの下っぽいんよな。きっとこの壁もあのドアに近い耐久やと思うんやけど、ただ厚さが分からんのよな。まあ掘ってみれば分かることか」
何度も金属音を聞き続けたことで、リアムはいま座っている位置から直径五メートル以内に、発生源があると目星をつけた。ならば、やることはただ一つ道がないなら作ればいい。ドアを穿った時よりも気持ち力を込めると、彼女は立ち上がり床に向かって拳を振り下ろした。
衝撃音とともに破片が飛び散り粉塵が舞ったが、一撃では床を貫通することはできず、一メートルほどのクレーターができたのみだった。思った以上に厚い壁に覆われていることを知ったリアムは、不満を漏らしつつも半円の中心部めがけて、さらにもう一撃を繰り出した。二撃目は見事に床を貫通したのだが、自分がどこに立っているのかというのを忘れていた。
「あ~、床を壊したらこうなるやんな? いや、分かっとったし!」
リアムは床だったものと一緒に落下しながら自問自答しては、あえてそうしたと自分に言い聞かせた。地下四階にたどり着いたはいいが、舞った粉塵により視界が確保できない。粉塵が落ちるまでの間、ハウスダスト満載な環境下で待機していても彼女としては何の支障もないが、ただその大人しく待っている時間がいまは惜しい。
「こういう時はアレに限る!」
リアムはおもむろに両手を広げてフゥーと息を吐くと、腕を伸ばしたままパチンと勢いよく手を叩き合わせた。ただ手を叩くという単純動作だが、音速にも近い速度で行われるそれは全くの別物。そよ風は暴風に微音は轟音となる、衝撃により足元に転がっていた瓦礫は壁沿いに拡散し、視界を妨げていた粉塵も四散したことで、やっと周囲の状況を確認することができた。
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