はじめての工場見学その3
この施設について何か情報は残っていないかと、無人の受付窓口に近づくと、施設内の照明が一斉に点灯し始め、半円形の受付カウンターに置かれたスピーカーからは、リアムを歓迎するアナウンスが流れた。
「魔宝石兵器開発局、アジア支部へようこそ。ゲスト様、本日はどのようなご用件でお越しでしょうか?」
リアムは聞きなれない言葉に「魔宝石兵器開発局?」と無意識にオウム返しをすると、今度はそれに対しての回答がスピーカーから聞こえてきた。
「魔宝石兵器開発局は、魔宝石と呼ばれる次世代エネルギーを用いて稼働、動作する兵器の開発、製造、運用する施設、設備の総称です」
その後もリアムはここぞとばかりにこの施設についての情報を入手していった。ここは最初に聞いたアナウンスどおり、魔宝石を動力源とした兵器開発に重きを置いた施設。そのなかでも自立型機械兵器を主に開発していたようだ。
亡骸樹林で遭遇した銀色の木のような脚部は二足歩行から四足歩行、はたまた無限軌道と様々で、腕部も重火器を取り付けたものから、人間の手を模した精密な動きを可能とした機械義手と、ここで開発したものが各地で運用されていたらしい。もしかすると、あの銀色の木もここで製造された機械兵器かもしれない。
他にもあれこれと質問を投げかけたが、これ以上情報を聞き出すことはできなかった。少しでも踏み込んだ質問をすれば、例外なく抑揚のない声で『機密事項によりお答えできかねます』と一蹴される。弾かれた質問を一部例に出すと、機械兵器の運用先、魔宝石の入手方法、働いていた職員について。
お母さんが開発した魔宝石が、これほど世界中に広まり名称から取った組織が存在したことに心が躍った。ここでなら今まで一度も見つけることができなかった、お母さんの痕跡を発見できるかもしれないと、そんな期待する感情が彼女のなかで芽生えた。このことがきっかけとなり、イデアが仕入れたお母さんに関する情報は、疑わず信用しどんな場所でさえも赴くようになる。
その後、リアムは受付カウンターの鍵のかかった引き出しをこじ開け中に入っていたゲスト用IDカードを借りると、液晶パネルにそのカードをかざしてゲートを通り抜けた。
セキュリティーゲートの先にはエレベーターがあり、行き先は二階から地下三階となっていた。まず最初にリアムは二階に向かった。二階はオフィスエリアで向かい合わせの机にパソコンが一台ずつ、その組み合わせのものが六つ横並びで、人間が一人通れる程度離して配置されていた。
壁沿いにはキャビネットが隙間なく配置され、その隣に複合機が一台だけ場所をとっていた。パソコンやキャビネットから情報を得ようとしたが、パソコンは内部破壊されていて起動もデータ復旧もできなかった。数十個とあるキャビネットの引き出しも全て開けて確認してみたが、書類どころか付箋の一枚すらも見当たらなかった。エレベーターに向かう際に、トイレや給湯室、着替え室などにも足を運んでみたが、もぬけの殻で何も残っていなかった。
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