はじめての工場見学その2
「このドア持ち手はないわ。押しても引いても開かんし、どうしたもんやら?」
鍵穴らしきものも見当たらず、押しても引いてもそのガラス扉はビクともしなかった。もしかしたら引き戸かもと思って、両手を押し当てながら左右に動いてもみたが、案の定開くことはなかった。ならば、あとは力づくでこじ開けるほかない。
リアムは右肩を数回ぐるぐると回すと、拳を握り締めガラス扉めがけて振り抜いた。
「――ウソやろ、マジで?」
リアムは目の前で起こった出来事を信じられずにいた。ガラスにひびは入っただけで、潜り抜けれるほどの穴すら空かなかった。金属製の扉でさえ素材を問わずに、厚さ五十センチ程度であれば、さっきの力加減で問題なく破壊できていた。なのに、このガラス扉はその半分以下二十センチにも満たない厚さ。ガラスのように透き通った未知の素材、鉄どころかタングステンをも優に超える強度。拳に伝わった衝撃に対して覚えがあった。ガラス以外の扉縁や蝶番といった部品も同様の素材を用いているように思えた。ただ加工時に着色しているのか、ガラス部分と違って透明ではなく、澄んだ茶色をしていた。
「――この感じどこかで見覚えがあるような、なんやったっけ?」
リアムはグーパーと拳を開閉しながら、該当しそうな素材を思い出そうとしていた。今まで色んなものをこの手で砕き握りつぶしてきた、彼女にとってそれが最も効率のいい覚え方だった。本で得ただけの知識は時間経過により零れ落ち、そのうち記憶のかなたに消失してしまう。そのため彼女はただ頭に詰め込むのではなくて、素材の特徴を体に覚え込ませることにした。この方法を提案したのは、もちろん頭脳担当のハムスターである。拳をニギニギすること数分、やっと該当する素材を思い出した。透明な素材で尚且つ圧倒的な強度を誇る、自然界において頂点に位置する物質。
「あ~、これダイヤモンドか。どおりで硬いわけや。ダイヤモンドってことは、これぐらいの力でいけたはず!」
リアムは一歩後ろに下げりフゥ~と一呼吸すると、先ほどひびを入れた箇所めがけて再度、拳を勢いよく振り抜いた。今度は遮られることなく拳はガラス扉を貫通した。パリーンと激しく音を立てダイヤモンドは砕け地面に散乱していった。日光が反射して周辺を煌びやかに照らすなか、彼女は満足気に自分が空けた箇所を潜り抜けた。
内装は外から見ていた時と同じで特に変わった様子はない。他の施設のように正面には受付窓口があり、その奥にはセキュリティーゲートが左右に一台ずつ設置されていた。ゲートには液晶パネルが取り付けられていて、そこに社員証をかざすことで通れるらしい。あと少しこのことを知るのが遅ければ、力づくで通過していただろう。
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