はじめての腕時計その4
おもちはこの腕時計以外にもう一つだけ、リアムを通してイデアにあることを尋ねていた。行商人であるからこそ自然と手に入り、最も重要視されるもの、それは情報だ。その手に入れた情報を売ることは可能かというものだった。
「イデア、情報も買える?」
「えぇ可能ですが……どういった情報をご所望でしょうか?」
「リアムのお母さんを探して欲しい」
「えぇっと~、リアム様のお母様ですか? リアム様、お母様について詳しくお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?」
「――是、任せて」
リアムはイデアにお母さんの容姿や服装などについて事細かに話していった。言葉足らずで内容の半分以上は毎回、人間には理解されないはずなのに、今回だけは十割全て伝わるという快挙。もちろんその快挙には裏がある。今回おもちが編み出した策は、彼が思考し鳴いてリアムが聞いて話す、リアルタイム翻訳。手ごたえを感じたリアムは毎回これでいこうと思ったが、のちにその考えを改めることになる。なぜなら、おもちは集落に訪れると必ずと言っていいほど、冬眠してしまうため協力を得られないのだ。
「お母様の容姿に類似した人物の情報を入手できた際には、またご連絡いたします。情報料、お支払いにつきましては要相談ということでよろしいでしょうか?」
「それでいい、じゃ早速頼んでもいい?」
「承りました。少々お時間をいただくことになりますが、よろしいでしょうか? もしどこか向かわれるご予定がおありでしたら、そちらで合流することも可能ですがいかがいたしましょうか?」
「ここで待ってる」
「承知いたしました。できる限り早く戻れるように善処いたします」
イデアはそう言い残すと、トラックに乗り込み爆音を響かせ集落をあとにした。
離れていくトラックを眺めながらリアムは、いつの間にか定位置に戻っていたハムスターのことを考えていた。人間の前では起きるどころかひと鳴きすらしようとしないくせに、イデアという行商人に対してはだけ、自分から前のめりに接しようとしていた。行商人とは何度も出会っているし、彼らの商品も実際に手に取ったこともあるが、たったの一度もおもちは彼に姿すら見せていない。なのに、今回はトラックを見るや否や飛び出して品定めまでしていた。それほど珍しい商品ばかりだったのだろうか、だとしてもあれほど人目を気にするおもちが、堂々と行動しているのが不思議だった。ただ彼女自身もイデアに対して言い表せないどこか懐かしいような感情を覚えた。
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