はじめての寵愛その1
「素晴らしい実に素晴らしい、アメージングだ! あの少女……確かリアムといったか、私の花嫁として最高の逸材だ。彼女しか考えられない……お前ら、何ぼさっと突っ立ってる? あの少女をリアムを私のもとに連れてこい! 今すぐにだ、さっさと行け!」
ボスからの命令を受けた部下たちは少女を捕まえるため、我先にとドアに群がり退出していった。第一陣が乗ったエレベーターが一階に到着した時には、もうすでにリアムは集落から脱していたのだが、彼らにそれを知る由もない。
一方その頃、リアムは高所から飛び降りたとは思えないほど、軽々しい足取りで街路を走り抜けていた。行きはあれほど瓦礫を踏まないように気にしていたのが、嘘のように踏み砕いていた。
あれから数十分後、彼女はまたここに訪れた時と同様に、北南を断絶する地割れに沿って、ゆっくりと歩いていた。急ぎ次の集落に向かいたいところではあるが、そうもいかない事情が起きていた。瓦礫を気にせず駆けたことで、スニーカーの靴底に大量の瓦礫片が突き刺さり、歩行すらままならないほど損傷してしまった。北上中に一度、休憩がてらに靴底に刺さった瓦礫片は引き抜いた。多少は歩きやすくはなったが、それでもこのスニーカーで走るのは無理そうだ。踏み込んだ衝撃でスニーカーを破壊してしまう、足裏に伝わる反動からそれが感じ取れた。その不満と後先考えずに行動してしまった自分、知ってて止めようとしなかったハムスターに憤っていた。彼女がその感情を発散するために選んだ方法は、口ずさむように悪態をつき続けることだった。
いつしかリアムの表情も柔らかくなった頃、遮るように生えた木々により判断はできないが、北西方面で何かが高速で移動しているのが見えた。見えたというのには語弊があるかもしれない、砂埃が北から南へと舞い上がっているのを見たことで、たぶんそうなんじゃないかという不明瞭なものだった。その高速物体の見た目や行き先など気になる点は多々あった。いまならまだ間に合う、スニーカーを脱ぎ捨て裸足で駆ければ、ほんの一瞬かもしれないが見ることはできる。だが、今回は諦めて見送ることにした。ただ移動しているだけであれほど目立つのならば、旅の道中でまた出会えるだろう。
彼女がいま最も優先すべきことは一秒でも早く次の集落にたどり着くことだ。お母さんの情報収集、それにスニーカーの修理もできるかもしれない。靴底に使用している素材や加工方法を知っていたとしても、肝心の材料がなければ話にならない。例え全て揃っていたとしても、それを用いて修理できるかと問われれば、答えはノーと言わざるを得ないだろう。先述のように知識はあっても実践経験は皆無なのだから。
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